とある男は悩んでいた。

彼はいろいろな事業を起こし育てる事に楽しみを見出してきたのだがそろそろネタが尽きてしまうことに気づいたからだ。

そこで彼は今まで見もしなかったアンダーグラウンドに目を向けた。

手始めに麻薬売買から始まり、銃などの密輸、闇金、暴力団、強盗、暗殺、果てはマネーロンダリングの事業まで起こし暗黒世界に君臨することになった。

が、そこでもネタが尽きてしまう。

事業は彼がいなくてもうまくいくようになったからだ。

故に彼はネタを探す。

時は流れ、イラク戦争を経験した後、彼は思いついた。

「……ふむ、戦争でもしてみるかな」

ただし彼は既にアフリカで紛争を起こした事がある。だから普通の戦争ではダメだと彼は考えた。だがそこから先は思いつかなかった。

「……まあいい、取り敢えず準備をするか」

彼は行動を開始した。





[???  AM 10:43  ウンバンドル空軍基地 モンゴル]


「はい、Mig21を……300!? は、はい。あるにはあるのですが……合計額が……あ、口座に今から入れる? ええ、確認を取ります。おい! 俺らの口座を今から直ぐに確認しろ!」

「りょ、了解。……………………………確認、取れました!」

「あ、はい。確認取れました。それでは直ぐにでも…………!」

電話が切れた。すると応対をしていた男が大口で捲くし立て始める。

「おい野郎ども! 日本から注文だ! しかも思いっきり大口のな! これで我が軍も一息つける。フィッシュベットを300機頼む阿呆がいやがった!」

「300!? そいつは戦争でも始める気でしょうか?」

「かもな。兵装引っ括めて全部との事だ。税関はこっちでどうにかすると言っていた」

「んなバカな!! そんなの信じられるか!!」

仲間の一人が大声で叫ぶ。彼は輸出担当だった。

「俺は1度日本に輸出しに行った事はあるがあの堅物どもを丸め込むのは至難の技だぜ。今はどうだか知らんが。とにかく俺は関わらん。絶対に捕まっちまう!!」

「大丈夫だ。なんせ”ミスターR”からの注文だからな」

「……なんだその冗談みたいなネーミングの男は」

男達の会話が途切れた瞬間に管制室から無線が入った。

『An-225が3機着陸許可を申請してきてます!』

「なに!?  An-225が3機!? バカな。あれは世界に1機しかないんだぞ! もう着陸体勢に入っている!? くそっ 対空砲……」

『An-225、ランディング!』

男達は窓に駆け寄り外を見た。遠くに昇る黒煙をバックに世界に1機しかないはずの最大級の貨物機の姿が3つあった。白いはずの機体は漆黒に塗られ、尾翼にはギリシャ神話のゼウスが描かれている。

「あれは……”ミスターR”のものか」

『その通りだよバトバタール大佐。手厚い歓迎を感謝する。商談成立を受けてMig21を受け取りに来たのだが……』

無線から40代前半の渋めの声が流れ出る。

「あの、それでは……あなたが”ミスターR”?」

『ハハハ……そう言われるとこそば痒いな。まあ書類に”R”としかサインしない私もいけないんだが。それで……Mig21は東の格納庫とその北西の格納庫にあるということでいいんだな?』

「は、はい。その通りです」

ミスターRが満足そうにフムと言ったのが聞こえる。

「何者なんだ、ミスターRって」

先ほど冗談のようだと言った男が聞く。それにバトバタール大佐が答えた。

「ミスターRはアンダーグラウンドの第1人者だ。特に密貿易の方面に長けててな。全世界を繋ぐ密貿易パイプを作っちまっうような方だ。彼も言ったようにいつも書類にRとしか書かなくてな。それでミスターRなんて通り名が付いちまったんだ。もっともそれ以外の素性が一切分からないのも1因だと思うが……」

『では私達は回収に入る。その間にミサイルを持ってきて貰えるかな。あぁ 対空砲はすまなかったな。狙われそうだったので破壊させてもらった。替わりにアメリカの最新式のSAMでも配備してやろう』


━━1時間後、Migはその時間だけで既にAn-225の中に格納される事になった。恐ろしいほどの速さだ。

『世話になったな。また会う日を楽しみにしてるぞ』

そういうとミスターRは漆黒の巨鳥を引き連れて帰っていった。

「頼むから2度と来ないでくれ」

バトバタールは心からそう思った。





ドバイの最高級ホテル”バージ・アル・アラブ”の最上階、デラックススイートの部屋に電話が掛かってきた。リビングで気怠そうに赤ワインを飲んでいた男がそれに出る。

「もしもし……おぉ ミスターRじゃねえか。仕事? いきなりだなぁオイ! こっちはドバイで休暇中だぜ? まぁいいや、ここは楽だが暇過ぎる。この前の大仕事以来ずっと入り浸ってるから飽きちまった。ん? あぁ、ビンラディンはあの核をどう使うのかねぇ。知らねぇし知りたくもねぇし興味もねぇな。 んで何だったっけか? あぁ? AKをありったけ? なんだ、1000丁位でいいか? あ? 1000万? おいおい、軍隊だってそんなに買わねえって。え、集めれるかって? そりゃあ……1週間だな。それだけありゃ世界中の銃を集めてみせるぜ。それこそ”ブラジャーからミサイルまで”な。ま、ハッタリじゃないんだが。おう、楽しみにして待ってろよ。じゃあな」

男が電話を切る。と同時に水着の女が部屋に入ってくる。

「ねぇダーリン。いつまで待たせるの? プールに行くって約束でしょ?」

「悪いなハニー。仕事が入った。終わったら金貨のプールにでも入れてやるよ」

「んもぅ、いつもそれね!私と仕事とどっちが大事なの!?」

「もちろん仕事さ。……おいおい冗談だって。待ってくれよハニー!!」

結局、成り行きで彼はプールに入った。





「これからが大詰めだな。さて、どこに売るかだが……またアフリカに売るのではつまらんからな。かといって中東でも同じようなものだしな……」

ミスターRが呟いていると携帯がなった。『G線上のアリア』の美しいメロディーが光のない部屋に満ちた。

「なんだ……………………そうか。実験が成功したのか。分かった。よろしく言っておいてくれ。後、直ぐに規模を大きくするようにしてくれ。そうだ。資金ならこちらからも出せ。とにかく急ピッチで事を進めてくれ。……あぁ 頼んだぞ」

彼は切ると、今度は自分の秘書に電話を掛けた。

「ターゲットが決まった。あぁ、今度はただの戦争をやるんじゃない、本当の意味での『革命』戦争だ。久々に楽しめるぞ、喜べ。……うむ、では『カタストロフ』を本作戦名とする。……安直なのは分かりきっているさ。だがこれ以上適切な名前もあるまい?」

プロジェクト・カタストロフ

これは地球とかけ離れた現実世界の裏側で静かに始まった。







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