虎獣人のラビラクト首相 ガング・オーグルマンの朝は忙しい。
「首相、今日の議題ですが……」
「首相! 南方の小国が我々に対抗するために同盟関係を結んだとの報告がありました。ただ今特使を派遣し、裏を取っている所ですが……」
「首相、モルタージュに宣戦布告するのに反対する抗議文が大量に届いています。国内の反対派がこのまま増えれば、次回の選挙の時に影響する恐れが……」
寝室を出ると同時に襲い来る人だかり。毎朝見ている光景だが、書類にまとめずに直接言いに来る人だかりを目の前にすると、毎度のようにガングには
「……いつも言っているが……議題は書類で出せ」
「「しかし情報の鮮度……」」
「アッー、アッー、アッー! ……言い訳も書類で出せば目を通してやる。だから黙ってそこを通せ」
「「ですが首相!!」」
耳を塞ぎながらガングは足早に仕事場へと向かう。本来ならどこかの神に仕えたモーセのようにこの人海は割れるのだろうが、ヤハウェには彼をこの場所から動かす気はサラサラ無かったらしく、東風が吹く事は無かった。
エジプト軍にも追いつかれ、ワイワイ周りで騒ぎ立てられる事にウンザリした哀れな預言者は、自らのその力強い手で人を掻き分けながら約束の地、執務室を目指す事にする。
やっとの事でガングは執務室の扉へとたどり着いた。ドアを開けて一歩部屋の中に入ると、クルリと振り返ってガングは事務員たちに告げる。
「それでは皆さん。書類の提出期限は7時までだ。形式は規定書に書いてある通りに頼むぞ。おっと、勿論私が作った方だからな。1秒遅れたなら、その情報が
我先にデスクへと向かう事務員たちを見ながら、ガングは勝ち誇った笑みを浮かべるとゆっくりドアを閉めた。
が、愉快な気分とはなかなか長続きするものではない。彼の場合は立派なオークの机の前に、沈重な面持ちで佇むカーチス首席補佐官を見ただけで吹っ飛んだ。
「それで……今度はどんな大変な事態なんだ? カーチス。ウエスト・ウィングのトイレが詰まった? 夜な夜な歴代大統領の肖像画がニヤケ笑いをする? それとも奥さんが熟年離婚でも申し込んだか?」
椅子に座りながらガングは戯ける。だがカーチスは反応を見せないので、ため息混じりに促した。
「……それで?」
「はい。現在我が偉大なる……」
「口上はいい。要点を話せ」
「失礼しました閣下。現在ラビラクトは北人が残していった遺産を使って電気を生産しています。遺産を作動させるにはドゥオトリアが必要なのですが、残念ながらドゥオトリアの塊が産出されるのはキール山脈付近のみで、ラビラクトでは一切の存在が認められません。国内での発見も急いではいるのですが、一級研究院のカンプ大博士の話によると、ドゥオトリア自体は世界中のどこにでもあるものの、実際に遺産の燃料にするには希薄過ぎるとの事です。これを収集して燃料とする技術も北人は有していましたが、その技術は今では完全に失われたと……」
「待て待て待て待て。要点を話せと言ったんだ、カーチス。科学の話はまた今度だ」
「はい。我が国の保有するドゥオトリアが、リービルカとの商業ルートが断絶したせいで無くなろうとしています」
「それは既に話された事だろう。どうして今になってモルタージュと事を構えようとしているか、分かっているのか?」
「勿論です。ですが最新の報告によりますと、今のままの電力供給を行うと早くて数週間、遅くても3ヶ月以内にドゥオトリアが底を尽きる事が分かりました」
「前回の報告の時は1年は持つと言っていなかったか?」
「先日、第4貯蔵タンク群からドゥオトリアが大量に流出しまして……」
「……あれか。流出した汚染物質はしっかり除去したんだろうな」
「ええ。既に近隣住人の何割かは住居に戻っています。ただ、政府直轄で管理しているという位置づけですから、野党からの言及は免れないでしょう」
「憂鬱になってきたよ。次の議会はいつなんだ?」
「明々後日の予定です」
「……それまでに宣戦布告でもするかな」
「閣下……」
「ジョークだよ、カーチス」
ブラック過ぎる冗談に自身で笑っていたのだが、しばらくするとやはりため息を吐いて机の上に大量に溜まった書類の中に頭を埋め、フガフガと喋り出す。
「だが国民の声がどうあれ、このままではいけないんだ。今の事態こそ国家存亡に関わるというものだからな。だから……今回のモルタージュ王女による王族の殺害は、チャンスだ。これ以上無いほどの正当な理由になる。そして……だからこそ残念だった」
「分かっております」
政の最高責任者の複雑な内心を悟り、カーチスはそう言った。
2人はそうして黙り込んだのだが。
「5分経ちました。そろそろ仕事に取り掛かって下さい」
「……もう少しセンチメタルな気分でいさせてくれないのか?」
「国家の最高指導者が感傷的では示しがつかないと思われるのですが……」
「こりゃ手厳しい」
表立ってはおどけた調子を崩さないで執務に取り掛かった。
(しかし腑に落ちない……先月通商条約でお前の要求をほぼ呑んだというのに……どういうつもりなんだ? ジェスター?)
真意の見えない親友の動きに、ガングは首を捻る事しか出来ない。
「手を休めないで下さい。10時までにこの書類を仕上げないと更に高く積み上げられたのを見る破目になりますよ」
虎獣人のラビラクト首相 ガング・オーグルマンの朝は忙しい。
*
戦場がやってくる。
ドーベルマンの犬獣人であるクレドは第六感でそれの到来を感知した。
直ぐに兵を集め、弾を揃えに掛かる。
今回のターゲットは恐らくレナ姫だろう。彼女と戦うには相当な量の弾がいるが……
在庫をクレドは在庫を必死に漁るが、出てきたのはスズメの涙程の最終兵器のみ。
無いよりはマシかと
ゴクリと喉を鳴らしながらしばらくそれを眺める。鈍く光る先端はクレドにはやけに頼もしく見えた。
そして部下が部屋に入ってきた事で、その時が来た事を悟る。
「行くぞ!」
恐らく今回も何人か家に帰る事が出来なくなるだろう。だが、目的は遂行しなくてはならない。
それがプロフェッショナルというものだ。
決意を胸にクレドは戦場へと赴く。
*
「イダダダダダダダッ!!! 心の準備させて!! モルヒネッ!! もっかいモルヒネ打って!!」
「これ以上打ったら安楽死が出来ますよ。はい男なんですから歯ぁ食い縛って〜。行きますよ〜?」
消毒液が司を襲う。レナの応急処置は雑菌がどうのこうのというのを考えないただ傷口を押さえただけという漢気溢れるものだったため、土などが付着したままだった。結果として司は消毒液の沁みを最大限に堪能する事になる。
「ムーっ!?」
司が痛みに大暴れし、それを抑えるために人間の衛生兵が馬乗りになった。彼はそのまま生理食塩水を司にぶっ掛け、包帯でぐるぐる巻きにし始める。口調こそ丁寧だが、そこら辺はゴールドスターの一員という所か。
「……あ〜、姫の騎乗位はそれだったんスか」
司と衛生兵の体勢が先刻の司とレナの体勢と酷似していたので、ようやくウィローは彼らが睦まじ事をしていた訳ではないと理解した。
だがこの言葉だけだと聞いたなら周りのヒトは逆の捉え方をしても仕方がないというものだろう。
「なんだ? 姫たちはあの非常時にそんな事してたのか? 若いなぁ」
「そうなんスよ。姫が司の上になって上半身をほぼはにゃぁかぁ……」
案の定というか、ディンゴが完璧に勘違いをする。調子に乗ったウィローが更に変な事を吹き込もうとしたが、突然飛んできた注射器が腕の静脈に見事に刺さり、最後まで物を言わずに撃沈してしまった。
「……凄い効果だな」
注射器を投げた張本人であるレナがあまりの効果にポカンとしていると、司の世話をしていた衛生兵がレナの近くに置いていた医療キットを急いで手繰り寄せて、勝手に内容物を使った彼女を、遠慮なくとっちめに掛かる。
「注射は然るべき訓練を受けた者以外が行うと最悪の場合を引き起こします! それくらいはレナ姫、あなたぐらいのヒトなら分かるはずじゃぁありませんか!? 全く、本当に我らが王族は……王さまはどうしようも無いほど親馬鹿ですし、司王子は異国から来たから流石に普通だろうと高を括っていたらハァ。うまく木の枝の下に埋もれてドラゴンに見つからなかっただけでももらい物なのに、姫を見つけたら治療の途中でそのまま飛び降りちゃうようなヒトでしたし。こっちは度肝を抜かれますって。あぁ、このヒトも王さまたちやウチの隊員と一緒なんだな……という感じで」
「す、済まない……」
レナは衛生兵のあまりの剣幕で怒られて気圧された。
「おい、フェライ。なんか俺たちがどうしようもない奴らだみたいな言い方じゃないか」
ディンゴがあまりの言い草に衛生兵――フェライに対して含み笑いをしながら言う。
「私がどれだけ苦労してあなたたちを蘇生させているか知っていますか? それを知っててそう言うのなら、もう私にはどうしようもありません」
ムッとしながらフェライが言い返した。ディンゴは「ちゃんと知ってますよ〜」と言うと葉巻を燻らせ始める。
その瞬間フェライは腰のベルトから注射器を取り出し輸液の瓶に浸して吸入、一瞬で引き抜いて先端を燻り出した葉巻に向けると一気に液を押し出した。
数メートル離れた所にあった目標だが液体は弧を描いて飛び、1発で火を消し止める。
周りから「おー」と声が上がり拍手が起こった。それから「11436発中8025発命中!」と声が上がる。
「あ〜ぁ……これ高かったのになぁ……いい加減隊全体を巻き込んでの禁煙は止めねぇか?」
水を含んだ葉巻を見ながら、ディンゴはナイフを取り出して濡れてない所まで切ろうとする。だが刃を進めていると自分の鼻先に当たり、完全に吸えなくなった事を確認するに終わった。
「残念ながら隊長、将来肺が真っ黒になる事は御免ですからね。喫煙は百害あって一利なしですよ」
「節度を守れば体にいいぜ」
ディンゴは反論しながら葉巻をピンッと弾いた。
「私が阻止してようやく節度が守れている状態ですよ?
コロコロと転がった葉巻を名残惜しそうに見つめたディンゴにフェライはキッパリと告げる。
「して、本心は?」
「私が苦労して禁煙しているのに隊長が吸うのはズルイじゃないですか」
ディンゴの問いに至極全うな答えだとばかりの表情でフェライが答えた。
「レナさん」
フェライの下敷きになったままの司が口を開いた。
「なんだ」
「是非とも教えてほしい事があるんだ。モルタージュにアクの強くないヒトっているの?」
司の問いにレナはチラリとクレドを見る。それからしばしの間考え込むが……
「……」
「なるほど。つまりいないって事ね」
レナがいつまでも考え込んでいるので、司はそう結論付けた。
「おいおい、姫。そこは自国民を持ち上げる所じゃないのか? 少なくとも俺は普通だぜ?」
「生憎私は正直者だからな。嘘は吐けん」
「あれだな。まださっきの事を根に持っているんですね。分かってますよ、姫」
「ああ言えばこういうんだな。中尉」
レナとディンゴの掛け合いに忍び笑いが起こる。
そんな感じでいい具合にほのぼのとした空気になったのだが……
『悪い、ドラゴンが1匹そっちに逃げた。二兎を追うものはなんとやらになる可能性が高いため、そっちのドラゴンはそっちで片付けてもらいたし』
V-22が夕日を背にいかにもな感じに進んでも、それがそのままFinになるとは誰も決めていない。ましてや前回取りこぼして、なおざりにされたままのドラゴンたちは、誰にも知られずにビックスとウェッジに撃ち落されて退場するほどお人よしでも無抵抗主義者でもなかった。
ウェッジからの無線を受けて直ぐにクルーズがレーダーを確認する。確かに何かが高速で接近してくるのが見て取れた。
「おいウェッジ。お前喧嘩売ってんのか? どんなお目目を持っていたらこの機体のどこに大砲が積んであると思えるんだ? やっぱり人間の目ってのは噂通り節穴か?」
戦闘行動の取れない輸送機にドラゴンを近づけてるんじゃねぇ! と毒づきながらクルーズががなり立てる。
『夜になると女とオカマを見分ける事も出来なくなる鳥目野郎よかは節穴じゃない事は確かだぜ?』
ウェッジはというと、クルーズの怒り心頭の返答もどこの吹く風で、さり気なくクルーズの最高機密事項をカウンターパンチとして添えて返した。サラリと漏らされた友の失態にビックスとウィローが嬉々として食いつく。
『ウェッジ。そいつはホントか?』
「クルーズ……見損なったッス……」
「うるせぇ馬鹿野郎! おい少佐殿! 大好きな戦闘をもっかいやれるぞ!」
話を逸らすようにクルーズがディンゴに呼びかけた。
だが呼び掛けるまでも無く、ディンゴは戦闘態勢に入ろうとしている。
「聞いてたぜぇ〜? 早くハッチを開けろ!」
ウキウキするのを抑えようともせずにディンゴは急かせた。
「少佐? 中尉じゃないの?」
周りの隊員も続々と戦闘準備を進める中、司が疑問に思った事を呟く。すると近くにいたケントがその疑問に答えた。
「あぁ、少佐は戦闘に出ると必ずのように戦死者リストに紛れ込むんです。それで2階級特進をするのですが、その度に生還して取り消されて……という事を何回もやっていて。だから部隊内では験を担いで少佐と呼んでいるんです」
「なるほど。え〜と……」
「ケント少尉です。王子」
「よろしくケント少尉」
司とケントが握手をする。何気なく会話の行方を追っていたレナがそれを見てピクッと尻尾を揺らした。
その反応を見逃さなかったディンゴが、物々しく咳払いをしてケントを
「少尉。あんまり司に近づくとレナ姫がやっかむぞ」
「……私はそんなに心は狭くないぞ中尉」
そっぽを向きながらレナが言った。
その様子を見てウィローが近くの隊員に耳打ちする。
「でもミーシャ姐さんには妬いてたんスよ」
「っ!? あれは妬いていたんじゃなくて……!」
その内容が聞こえたレナが顔を真っ赤にして否定するが、周りはニヤケるだけでそれを認めようとしなかった。
「初々しいねぇ。オジサンもそういう時期があったなぁ。一目ぼれした女の子に手紙を押し付けてさ……」
「そんな事したんスか隊長」
ディンゴの昔話を聞いてウィローに耳打ちされた隊員が反応する。
「そうだ。お前だってあるだろ? アイク」
しかしアイクと呼ばれた銀狐獣人は、そのボールを完全に空ぶった。
「いえ、自分は告られた経験しかありませんから」
「よーしおめーら! アイクをドラゴンの餌にしてもいいぞ!」
ディンゴの号令で隊員たちがアイクに飛び掛る。
「用意はいいか!? 開けるからはしゃいで外に飛び出すなよ!!」
クルーズが騒がしい貨物室に顔を出して叫んだ。するとアイクを縛り上げていた隊員たちが一斉にハッチに標準を定める。
「おーしゃ来い!!」
ディンゴの雄たけびと同時にハッチが開きだした。正面に夕日が現れ、皆は目を細める。
が。
「……ドラゴンはどこ?」
備え付けてあったM1ガーランドを構えた司が目を凝らす。が、いくら目を細めようともドラゴンのドの字どころか、トカゲのトの字すら飛んでいる気配が無い。
「レーダーにも写ってねぇぞ!」
クルーズが叫んだ。ドラゴンが急にステルスの能力でも入手しない限り、こんなことは起きるはずがない。
「……この機体の真下か真上にいるんじゃない!?」
司が考えられる可能性を搾り出した。現状況で考えられるのはそのくらいである。
「クルー……」
「よ〜しアイク。覚悟は出来てるな?」
司がクルーズに機体を振るように指示しようとしたが、その前にディンゴが行動を開始した。
「な、なんですか?」
「まああれだ。黙ってされるがままになってろ」
「……アイサー」
ディンゴがロープをアイクに巻く。その端をしっかり機内に固定すると、アイクににこやかに笑いながら宣言した。
「よし、しっかり固定出来たな? じゃ、行って来い!」
「えっ!? ……うおわぁああぁぁああああ!?」
ディンゴはアイクを担ぎ上げると、そのままハッチから外に放り投げる。
為すすべ術もなく空中に身を躍らせたアイクは絶叫を上げながら一気に視界から消えた。
「どうだぁ!! ドラゴンいたかぁ!?」
ディンゴの問いに銃声が答える。
「真下にいる!! 喰われる!! このままだと喰われる!!」
身を乗り出して下を確認すると、確かにバタバタ暴れるアイクの下方にドラゴンの姿があった。
「おーし引き上げるぞー!」
「上昇してきたぁ!! 早く上げてくれ!!」
アイクを引き上げ始めると、それにつられるようにドラゴンも上昇を開始する。このまま上がってV-22を攻撃するつもりなのだろう。
「クルーズ、ブレイク!!」
「アイアイッ!!」
先ほど出そうとした指示を司が叫んだ。直ぐにクルーズが操縦桿を倒し、右方向に機体を流す。
鋭い爪を突き出してV-22に突撃しようとしたドラゴンは、左エンジンの側面を少し傷つけただけで上空へとあしらわれた。
その際にアイクが進路上にいたが、「だぁあぁああ!!」と気合一発、ドラゴンの表面を蹴ってその線上から離脱する。おかげで巻き込まれてロープが引きちぎられる事態を回避し、九死に一生を得る事が出来た。
「撃て撃て撃て!!」
ハッチのぎりぎりまでゴールドスターたちが出てきて、上から降りてきたドラゴンに向けてガーランドを撃ちまくる。8発の銃弾を撃ちつくす度に弾を留めていたクリップがピーンと甲高い音を立てて薬莢と一緒に空中に消えていった。
「!! クルーズ!! 最大速度で巡航!! 振り切れ!!」
ドラゴンの口に火がチロチロと漏れる。
どう見てもファイアブレスを吐く前兆だと思った司が、いつまでもドラゴンと同じ速度で飛ばしているクルーズに叫んだ。
「あ〜これは俺の推理だけどな! どうやらエンジンが不調のようだ! お約束だろ!?」
「あ〜もう!! そうだね!! 皆!! ファイアブレスをしようと口開けたらそこに集中砲火!」
司のその声が聞こえたのか、ドラゴンは炎を止めて再び上空へ消える。
全員が追い討ちを掛けようとしてみるが、大きな尾翼が邪魔をして上の様子は見えなかった。
「くそっ!! 口径がデカイ奴はないのか!? こんな豆鉄砲じゃ歯が立たねぇ!!」
隊員の1人が効果の出ない銃にイラついて吼える。
確かに彼らの撃つ弾はそこそこの精度で命中していたが、弾の口径が小さすぎてどれも決定打を与えるに至っていない。
そうこうしている内にドラゴンはV-22の上空で反転。そのままパワーダイブを開始する。
クルーズは、ドラゴンが進路変更してもぶつからない所まで加速するまで我慢してから旋回した。
ドラゴンはまたしても空振り、下方に消えていく。戦闘が始まりすっかり忘れ去られて吊り下げられたままのアイクがまたギャーギャー騒ぎ始めた。
「そういやスティンガーは!?」
歯がゆい現状を打破するために司が先ほど使った兵器を探す。だが機内を一瞥しただけでスティンガーの発射機が無い事が見て取れた。
それでもまだ必死で探す司を見てディンゴが怒鳴る。
「弾はまだあるんだがな! 発射する筒をお前が捨てちまったんだよ! それよか撃てや!!」
「……一つだけ言いたい事があるんだ!」
ディンゴの言葉を無視して司がレナに叫んだ。
「なんだ!?」
レナも負けじと叫ぶ。彼女もガーランドに持ち替えてドラゴンに発砲していた。
「この前終わった時はなんか次の章はモルタージュから始まるみたいな感じだと思ったんだけど!?」
「気のせいだ!! あまのじゃくの作者がそんな風に話を進める訳が無いだろう!!」
「やっぱそう思うよね!! この作者の○○○!! あっ!? 文字を伏せやがった!!」
放送禁止用語を掲載している危険があるため、仕方なく削除致しました。
「おい司! 訳分かんねぇ事言ってねぇでしっかり狙え!! そういやゴルボ! お前馬鹿でかいライフルを持ってたな!? 前に出ろ!」
「ウッス!!」
ディンゴがガーランドを連射しながら叫ぶ。すると2メートル長の銃身を持つラティ m/39をを担いだゴリラ獣人が集団を掻き分けて出てきた。
「あいたっ!? 背中の怪我はまだ治った訳じゃないんだから突かないで!! あと名前の由来はまさかのまさかだよね!?」
押された司が文句と一緒に何度目か分からない疑惑を口にする。が、当の本人は全く気にせずに射撃準備を始めた。
その間も右に左にドラゴンの攻撃を避け続けているクルーズが無線に怒鳴る。
「ビックスとウェッジ! お前らはホントに一体何をやってるんだ!!」
『ドラゴンと交戦中だぜ〜』
『Me to〜』
やる気の感じられない二人の答えにクルーズは無事に戻った暁には必ずや必殺延髄切りを叩き込む事を誓った。
が、それにはまず生き残る事が先決である。そのためには本心を隠して手でもゴマでもなんでもスるものだ。
そう考え直してクルーズはご機嫌取りをしようとする。
「まぁあれだ。取りあえずそっちのドラゴンは放っておいてこっちをどうにかしろ」
果たしてこれがご機嫌取りなのだろうか。
『『無茶言うな!』』
「テメェらが無茶押し付けてんじゃねぇか!!」
だがあの台詞ではクルーズの思い通りになるはずも無く、いい加減
結果的にはそれがビックス&ウェッジの思惑に適う事に気付いたが後の祭り。もう1度回線を開く気力はクルーズには残されていなかった。
そして気力が残されていないという事に於いては、ケントも負けてはいない。
「ゴルボ!! そのライフルを貸しなさい!! 私がぶっこんでやるわ!!」
ケントの得意としているのは俊敏な動きの出来る体を十分に生かした接近戦だ。射撃の腕もかなりのものだが、チマチマ狙いを付けるよりも早く相手を片付けられると彼女は自負している。
そしてそのように一瞬の戦闘を繰り返した結果か、いつの間にかケントは短期間に決着が付かないとイライラするようになっていた。
勿論その気持ちを抑える事は簡単である。
簡単ではあるが自分が片付けられると思った敵を、誰かに任せっきりで自分は効果の無い攻撃を続けるほど内に溜め込むタイプでは無い。
「……ウッス」
ケントの命令を受け、苦労してセッティングしたラティをゴルボは投げた。彼の未練が乗ったせいで重く感じたのか、かなり投げやりな様子での投擲である。
数人の隊員の頭上を50キロの塊が通過した。
「のわっ!? 姉御!! 機内でそんなデカイもん投げさせないで下さいよ!!」
ケントの真横で射撃していた隊員が上から降ってきたラティに押し潰されかけ、危うい所で飛び避ける。
「イタッ!? だから背中を押さないでって!!」
「やっぱお前は邪魔だからコックピットにでも行ってろ!!」
飛びのかれた拍子に背中をど突かれて悪態を吐く司にウンザリしたディンゴが吼えた。
「司ぁ〜。操縦代わってくんねぇか? そろそろこの鈍亀に嫌気が差してきた頃合だしな」
貨物室の空気を敏感に感じ取ったクルーズが願い出る。まるでディンゴの援護のような申し出に「V-22の操縦方法なんて知るかぁ!!」と、司は撥ねたのだが、「俺でも飛ばせてるんだから大丈夫だって」と、もっともな答えをクルーズに返されて言葉に詰まった。
「私が飛ばそうか?」
そんな彼を多少不憫に思ったのか、レナがそう申し出る。
その瞬間に司が顔を引き
「……いや、いい。なら僕が飛ばす」
ともすれば変形してしまう口でも普通に聞こえるように返答する司。
彼の努力が実ったのか、レナは「……なんだそれは」と好意を無下にされた
が、司は画竜転生を欠いてこれまでの人生を歩んできていた。今回も例に漏れずに点を抜く。
「だってレナさんが飛ばしたらクルビットされそうで怖いんだもん。ただでさえ問題の多い飛行機なのにさ」
「……」
「あだっ!?」
避ける間も無く司の頂点に拳骨が叩き込まれた。
ゴールドスターたちはこの光景を片手で数えるほども見てないが、既に何の違和感も無く、またかよと思ってしまう。
「っつぅ〜……」
いつもと違ったのは、司と一緒にレナも腕を抱えて
「姫。司を殴っただけでそんなに痛いんスから、相当重症ッスよ。おとなしく寝てたほうがいいんじゃないッスか?」
「……そうだな」
考えてみれば自分はドラゴンのあの腕に危うく潰される所だったのだ。どこかの骨に
レナはそのように納得したようだが、そんな当たり前な事を自分を殴るまで気付かないとは何事かと司は思った。
「ケント少尉!! 夫婦の情事に見とれるくらいなら彼氏に渡すプレゼントでも考えた方が有意義だと思うぞ!! そこでどうだ、試しにそこでお友達になりたがっている糞トカゲにあっつあつのプレゼントを渡すっていう案があるんだが!!」
一向に撃ち落される気配の無いドラゴンを避け続けているクルーズが怒鳴る。今からクルーズの代わりに、行動してくれない戦友の尻を叩きまくらなくちゃいけないのかと思うと、司は抱えている頭をそのままにしていたくなった。
「あっ、失礼。……で、その案には賛成します」
ケントはそう返すとラティを担ぎ直し、ドラゴンに狙いを付ける。人間には持ち上げられそうもない重さの銃の銃口を、上下左右に飛び回るドラゴンに向け続けるのは並大抵の事ではないが、彼女はそれを見事にやってのけた。
そこでようやく司はやらなければならない事を思い出し、耳を伏せて手で押さえる。
彼の体勢をみてディンゴもハッと気付き、「砲撃!!」と叫んで司と同じようにした。ディンゴの警告でゴールドスターの隊員は一斉に伏せて耳を伏せ口を開ける。
直後にケントが引き金を絞った。
思わずディンゴの声に反応してしまった面々は、その爆撃となんら変わらない圧力で襲ってきた銃声を、モロに聞かないで済んだ事に感謝する。
ただし被害を受けた者もいた。レナやウィローやクルーズは、ディンゴが何を言っているのか理解しかねて、何も行動出来ずに爆音を聞いてしまう。
なにせ人間でもイヤープロテクターを付けなければ突発性難聴になる音量だ。人間よりも数段に耳の良い彼らは、音速で機内を反射した幾億もの針が耳から脳に突き刺さったかのような思いをする。
だが何と言っても一番の被害者はケントだろう。
その銃身の大きさからある程度は覚悟していたが、まさかここまで銃声と反動が大きいとは思っていなかった彼女にとっては、不意打ちどころの騒ぎでは無かった。
この巨大なラッパのベルに一番近い所で、耳も塞がずに直接ファンファーレを聴いてしまっては、どんな戦場でも冷静さを失わないと自負するケントでも怯んでしまうというものだ。
ケントが力を緩めた隙に、20ミリの弾丸の強大な反動が彼女に襲い掛かる。耐え切れずに仰け反ったケントは、ラティのその重さを制御出来ずに銃身を天井にぶち当て、衝撃で暴発させてしまった。
大口径の弾は見事な円形に穴を
暴発の反動でケントの手を完全に離れてラティは宙を猛進した。が、そこで本来の持ち主であるゴルボが乗り出し、またどこかにぶつかって暴発する前に片手で受け止める。
暴力的な音が消え、元のターボプロップエンジンの響かせる風切り音と、貨物室を抜ける空気の音しか聞こえないような静けさに戻った。騒々しかったのは数秒の事だったが、その間にV-22に乗っている者が受けた被害は計り知れない。
「中尉! ……出来れば今度からは部外者にも分かるような警告をして欲しいな!」
レナが潰されかけた耳を叩きながら叫んだ。本人は普通に喋ったつもりだったが、先ほどの銃声で被った音響外傷による耳鳴りが酷すぎて、周りの音を聞き取る事が出来なかったため、自然と大きい声になったのだ。
「これはすみませんでした姫! ただいつも使っている言葉の方が皆の反応がいいもので!!」
ディンゴは悪びれないでそう返した。耳を押さえていた上に、普段から戦場に身を投じている分、丁度いい具合に難聴が進んでいたので、ダメージはそこまででも無い。
ディンゴの言葉に思わず従って、対爆体勢を取っていた他の隊員も次第に麻痺状態から回復し始めた。
「つぅ〜……耳が潰されたかもしれません」
が、やはり一番ダメージを受けたケントはそう簡単に立ち直れるものではない。まだクラクラしている頭を振りながら、彼女はどうにか立ち上がろうとするが、なかなかうまくいかない。
するとディンゴがケントの背後に回り、抱え起こした。
ケントは何が起こったか分からなかったが、ともすれば今脇で支えている手が胸に伸びようとするのを見て、ディンゴが助け起こしたと判断する。
「ありがとうございます。もう一人で立てるので胸まで支えなくても結構です」
「まぁいいじゃないか。未来の妻の胸を支える事など造作もないさ」
ガリッ
「あだぁあぁああ!?」
ケントは何の躊躇いも無く、おふざけの過ぎたディンゴに爪をおみまいした。
「ちゃんと耳が機能してるじゃないッスか」
「そうね。安心したわ」
呆れた様子のウィローにそう返して、ケントがラティではなく、いつも使っている狙撃用のスプリングフィールドM1903を手に取る。流石にもう自分の丈に合わない銃を使う気にはならなかったらしい。
「ところで……ドラゴンが見当たんないけど、墜ちたの?」
司が外を見回すが、またしてもいなくなっていた。ラティの弾が当たったのか、それとも例の如くどこかに隠れているのか。
司は一瞬考え込んだが、直ぐに下にいるアイクに聞けばいい事に思い当たった。
「アイクッ!! ……っていない!?」
「「なにぃ!?」」
慌ててディンゴと隊員が確認しようとハッチに駆け寄る。確かにアイクのぶら下がっていたロープは、途中から千切れて無くなっていた。
「あら〜……まだ若かったのになぁ……」
「どう考えてもアンタのせいだろ!?」
アイクの死んだ原因を作ったディンゴのその白々しい言葉に、司が噛み付く。
「ま、この程度で死んじまうようなら、その程度って……?」
ディンゴが軽く聞き流そうとしたその時、下に広がる森から銃声が響いた。
「ヤッコさん、生きてるようだぜ……両方とも」
ディンゴの言う通り、双方共に生きていた。銃声からしばらくして、森の中から飛び出してきたドラゴンの首にアイクがしっかりと抱きついているのを司たちは確認する。どうやらケントの撃った弾は命中しなかったようだ。
「……し、シブトイ……両方とも」
司は自分の事を完全に棚に上げて言った。
取りあえずアイクが生きていた事に一同は安心する。しかしそれは同時に、首にしがみ付いているアイクに当たってしまうため、ドラゴンを撃つ事が出来なくなるという事でもあった。だがドラゴンの方はそんな事はお構いなしでこちらを攻撃してくるだろう。
ドラゴンが上昇を開始した。アイクの事は完全に無視している。というよりアイクが乗っている事に気付いてないようだ。
司は対応策を考えなくてはと頭を絞ったが、焦れば焦るほど考えがまとまらない。ある意味学校の試験と同じような状態となった。
ただし今は同じ問題を多人数で考える事が出来る。3人寄っても文殊の知恵なのだから、これだけ大勢寄れば大日如来の知恵くらいにはなるだろう。
……どちらかと言うと船頭多くして船山に上るになっていたが。
「よ〜し、丁度いい。どうやらクライマックスを飾るための役者が揃ったようだ。そろそろ幕を引かなきゃな。おいクルーズ。お前に一っ働きを頼みたい。王子と代われ」
「へいへいっと」
「あぅ、ウヤムヤになりそうだったけど、結局このコルベットを飛ばすのね……」
ディンゴが何か思いついたらしく指示を出す。このまま何もせずに帰れるかな、と期待していた司はため息を吐いた。
「なんで船の話になるんだよ。いつからここは海になった」
ディンゴが何も知らねぇなコイツ、といった口調で言う。
「ナウシカ知らない?」
「なんだそりゃ」
「……映画見れる環境じゃないもんなぁ。徳間書店もありそうにないし。コルベットってのはその漫画の中だと飛行機なの、んで……」
司がディンゴにナウシカの解説を始めた。とてつもなく空しい行為であるが、それをしないと自分にしか分からないネタをいつまでも使い続ける羽目になる。そんな淋しい思いはしたくない司だった。
「あれじゃないッスか? ザンドラ姫の話に出てきた……」
司の説明を横で聞いていたウィローが、思い当たったようでそんな事を言い出す。それでディンゴも合点がいったらしく、「あぁ、あれの事か。それならそうと言えばいいだろうが」と司に言った。
あまりに当たり前という感じで言われたので司はすぐに反応出来なかったが、翌々考えてみると彼らは知っている訳の無い情報を、サラッと言って退けたのである。
「なんでロジャー・コーマン版を知ってんだよ!? お前らこっちの世界の事を変な風に知りすぎだろ!? てかその前に映画館とかあんのかよ!!」
「ああ、王立映画館がある。父上の趣味だ。一般公開もされている」
レナの言葉に司はしばし固まった。
「………………うわぁ……色々突っ込みたい所はあるけど……やっぱ主人公が獣人になってたりすんのかな……誰がどの種類になるのか全然分かんないけど」
レナが頭を振る。
「ジョン・ウェインやクリントン・イーストウッドやゲイリー・クーパーの代わりを私たちが出来ると? 有難いが買いかぶり過ぎだな」
「俳優のチョイスがこれでもかって程古き良きアメリカだ……」
司はもう呆れすぎて言う事が無いらしい。
するとウィローがクックッと笑って、偏ったチョイスの訳を司に説明した。
「姫は熱狂的な西部劇ファンなんスよ。暇があればガンプレイを練習するくらいッスから」
「な、何故それを!?」
ヒトに隠れて西部劇の主人公のマネをしようと、ファスト・ドロウやガンスピンの練習をしていたレナがうろたえる。
「あれ、じゃぁ噂は本当だったんスか?」
「なっ……!?」
ウィローがニヤリとした。見事に引っ掛けられたレナは黙るしかない。
一方、ディンゴは会話から外れて、一時的にドラゴンライダーとなっているアイクになにやら合図を送っていた。それを見たアイクは全身を使って拒否の意を伝えるが、ディンゴがガーランドを1発近くに撃つと、後はただドラゴンにしがみ付くだけになる。
「よーし。準備OKだ。王子! 機体をドラゴンのまん前に持っていってくれ!」
「なんだって!?」
クルーズと操縦席を代わった司が聞き返した。一応ちゃんと聞こえてはいたのだが、突飛な内容だったので、うまく理解出来なかったのだ。
「アイク救出とドラゴン退治を同時にやるんだよ! ドラゴンの前を付かず離れずで飛ぶんだ!」
「無茶苦茶だよ!!」
「その台詞は押し通せって言われるためにあるんだぜ?」
確かに、と司は思ってしまったので、しょうがなく覚悟を決める。
「知らないよもう!! クルーズ!! ここら辺詳しいんでしょ!? どっか谷みたいな地形の場所は無い!?」
「あるぜ〜! 真下にスクラッチ・キャニオンってのがある! ちなみにそこをどれだけ速く通り抜けられるかってレースがあるんだが、何を隠そう俺は去年のチャンピオンだ! 途中で落ちてくる卵の模型を取るのは結構至難の技なんだぜ?」
クルーズが胸を張った。スプーン競争の強化版のようなものかなと司は思う。
そこでようやくディンゴが何故クルーズを必要としたか分かった。
「それ聞いて安心した。中尉が何やろうとしているか大体見当が付いたからね。頑張って! よっしゃぁ!! コルベットの操り方を教えてやる!」
「痛いぞ司!」
「いいの! ちょっと振り回しますぜ、殿下!」
笑ったレナをクシャナに見立てて司が言い放つ。直後にV-22の機首を垂直に落とした。
「「「うおわあぁあああっ!!!?」」」
貨物室が無重力状態になる。中のヒトは慌てて周りにしがみ付き、空中に放り出されないように踏ん張った。
V-22は高度をどんどん下げて、森を
「王子!? 司!? 気でも狂ったか!?」
ディンゴがどうにかコックピットに
が。
「ジタバタすんじゃねぇ!! コルベットは客船じゃねぇんだ!!」
しかしそこでディンゴも引き下がる訳が無い。終いには司から操縦桿を取ろうとしたので、クルーズが止めた。
「少佐!! こりゃ完全にキめてるし、コイツなりに考えがあるんだろ!! それよか俺はこの後何すりゃいいんだ!?」
「直ぐに分かるさ!! 王子が墜落さえさせなきゃな!! おい司王子!? いい加減機首上げねぇと底の川に突っ込むぞ!? 俺は戦わないで死ぬなんて真っ平御免だからな!?」
「分かってるよ! みんな掴まってぇ!! ヨ〜ソ〜ロッ!!」
司が一気に操縦桿を引く。それに加えてエンジンもプロペラが上を向くように回転させた。
V-22は谷底の川の直ぐ上で、ホバリングを開始する。急降下で乗りに乗ったスピードを殺すために、生成出来る限りのダウンウォッシュを下の川に吹き付けた。
ここでRI社の
ターボシャフトエンジンの燃料室とタービンを抜け出てきた高温のガスに、再び燃料が加えられた。
ガスの出口であるノズル近傍で爆発的な燃焼が起こり、無色だった排気ガスがオレンジに彩られる。
「……アフターバーナー付きかよ!?」
司が驚きの声を上げた直後に、圧力に耐えられなくなった水面が一気に盛り上がり、V-22は水しぶきの中に消えた。
「!?」
「バッ!? 驚いてねぇで上昇しろこの糞トカゲ!!」
いきなり敵が消えて呆気に取られたドラゴンは、そのまま水しぶきの中に突っ込んでしまう。
ドラゴンと
それに釣られてドラゴンが上昇を開始し、運よく岩肌に激突する事無く、峡谷の間を滑空し始める。
「……ふぅ。良くやった、トカゲ」
アイクがポンポンとドラゴンを叩いて言った。
するとドラゴンが、その長い首を曲げてアイクを見る。
「……誰の許可を得て、私の上に乗っている?」
「へっ!? 知ってて乗せてくれてたんじゃないの?」
「何故敵を乗せねばならない?」
至極もっともな疑問にアイクは直ぐに答える事が出来なかった。
「…………ちょっと待て。後1分くれたら、お前のオツムでも理解できる理由を考えてやる」
苦し紛れに言った直後に、ドラゴンは口を大きく開いてアイクを飲み込もうとする。
その時、銃声が鳴り響いた。
「了解!」
アイクはそう言うと、後方にジャンプしながら、タクティカル・ベストから手榴弾を素早く取り出す。犬歯に安全ピンの輪を引っ掛けて抜くと、そのままドラゴンの口の中へと放り投げた。
手榴弾はクルクルと弧を描くと、突っ込んできたドラゴンの口の中へと消える。
何かが喉を通った感触があったが、手榴弾という存在を知らないドラゴンは、気にせずに自由落下を始めたアイクを八つ裂きにしようと手を伸ばした。
「チェック」
アイクが指で銃を作り、撃つまねをする。
いつもやっているその決めポーズをした直後、ドラゴンの胃の中で手榴弾が炸裂した。
いくら装甲の固いドラゴンと言えど、内側から爆発されてはひとたまりも無い。その鱗の隙間からは血が吹き出し、構造上比較的脆い頭部が圧力で弾け飛んだ。
今まで揚力を発生させていた翼は痙攣と一緒に折り畳まれ、ドラゴンの亡骸は重力に捕まる。
ディンゴの案を頼りに行動したアイクだったが、このままでは彼らの救援よりも早く自分は水面に叩き付けられるのは必須だ。
何かいい案は無いかと考える像のポーズを空中で取り始めた時、墜ち始めた元ドラゴンの巨体が目の前を覆う。
「!! 最後の悪あがきっっだっ!!」
アイクはドラゴンの体の上に乗っかると、上に向かって思いっきりジャンプした。
「頼みますよ隊長!」
後は隊長が責任を持って、自分のした事の後始末をするだろう。てかしろ、と思いながら落ちるに任せる。
一方ドラゴンやアイクの
「王子!!」
「分かってるよ!!」
先ほど外にガーランドをぶっ放したディンゴが、全てが終わった事を見届けてから司に呼び掛ける。司は言われるまでも無く、またエンジンを回転させ、プロペラ機と同じ構造にすると、アフターバーナーを焚いてV-22を一気に加速させた。
プロペラ機の速度限界である750キロ付近をアフターバーナーで無理矢理超え、馬鹿みたいな速度で落ちてきたドラゴンの下を潜り抜ける。そしてそのまま急上昇。
「よしいけチャンピオン!!」
「っしゃぁ!!」
宙に浮いているアイクを確認するとディンゴが待機していたクルーズに合図を送る。
クルーズはハッチから飛び出し、体勢を整えるとアイクに向かって一気に最大速度まで加速した。
その形は完全に狩りを始めたハヤブサだったが。
「待て、待て待て待て待て!! クルーズ!? お前俺を殺す気ガッ!?」
「おっと悪い」
クルーズは全く減速せずにアイクを足で捕まえた。衝撃でアイクは気絶する。
「行くぜぇ司!!」
言うとクルーズは回転し、その勢いでアイクを更に上空へと放り投げた。
「
(了解!)
司はまたエンジンを回転させる。今まで正面を向いていたエンジンが上を向き、そのまま回転を続け、最後には真後ろを向いた。
「バックオーラーィ」
RI社の魔改造はエンジンの回転機構にまで及んでいたらしい。これにより、ハリアーUなどと比べ物にならないくらいの速度で、空中を後退し始めた。
そしてそのままハッチからアイクを飲み込む。
貨物室で待機していたゴールドスターたちが飛び込んできたアイクの体をしっかりと捕まえた。
司は「ナイキャッチ!」と言うと、V-22をホバリングさせてクルーズの収容にかかる。
すぐにクルーズがハッチに姿を見せ、無事に中に入った。そのままアイクに近寄ると、羽で鼻先をくすぐる。
「クシュッ!! う……ぁ、助かったのか……?」
「聞いたか? ドラゴンライダー様はまた随分と可愛いクシャミをなさるようだぜ」
クルーズが笑いながら言うと大爆笑になった。
笑われているアイクはというと、まだ頭がボーっとしているのか反応が無い。だが、何気なく首に手をやった時に大事なものが無くなっている事に気が付いた。
「……クルーズ、テメッ!? お前が全力でぶつかったせいでクロムハーツのドックタグが無くなったじゃねぇか!! この前買ったばっかなんだぞ!? 馬鹿高かったんだからなアレ!!」
「おっ? お前クロムなんて持ってたんだ。そいつは悪かったな。ま、命あっての物種だし許せ。……にしてもなぁ。クロムハーツ買うならガボール買えよ。そっちのがいいぜ? いい機会だし乗り換えたらどうだ?」
「てめぇヒトの趣味に
「ヒトの巣穴に首突っ込む奴が何つった?」
「あんだと!?」
「なんだよ?」
なにやら険悪なムードである。
「知り合い?」
「そうッスね。まぁいつもの事ッス。……アイク! クルーズについて面白い情報があるんスけど、買うッスか?」
「あ、ウィローテメェ!?」
「勿論だ!!」
ギャアギャアと元の調子に戻ったので、司はやれやれと思いながら笑うと操縦に戻った。
「クロムハーツとかガボールとか……なんだか知らんけど、ぜぇったい僕の世界にもありそう」
「司んとこにもあるんスか? やっぱり司は北人なんじゃないッスか?」
「また北人か。こりゃ北方領土を調べなきゃいけないな〜。絶対面倒な事になりそうだけど」
残念だが、司が面倒事に巻き込まれるというのは、もう運命のようなものである。
『あ〜あ〜。こちらウェッジ。どうだクルーズ。うまく逃げ切れたか?』
「こちら司。おかげさんでうまく迎撃出来たよ」
ウェッジが今頃無線を入れてくる。レーダーの状況と、外を見ていたゴールドスターの1人が「ビンゴ!」と叫んでいる事から、どうやら最後の1騎を墜とした後の勝利宣言をしてきたんだと、司は判断した。
『あ、王子ですか。こいつは失礼。うまく切り抜けれて何よりです』
「頼むよホントに〜。こっちは何にも出来ないんだからさ〜。でもま、残りの説教はモルタージュに帰ってからだね」
上機嫌で司がそう言うと、なにやら不穏な空気が無線から漏れ出す。
『あ〜……誠に言い難いんですがね』
「?」
『ドラゴンの増援らしいのがそっちに向かってますよ』
「冗談じゃねぇぞオイ!?」
司はアフターバーナー全開にすると、超高速で峡谷の間をすり抜けさせ始めた。
*
太陽が沈み始め、雲から漏れる残光が幻想的な色合いで大気を染め上げていた頃、モルタージュの滑走路で歓声が起こった。
直後にタイヤが白煙を上げて咆哮し、F-5が次々と地面に帰還する。
「……無事に戻ってきたみたいね」
「そうですね。ただ整備班はこれからが大変だろうと思いますが」
滑走路の脇で無線機に指示を出していたミーシャがそう言うと、隣に座っていたエアがご愁傷様というように答えた。
確かにどのF-5も大小の違いはあるが、傷だらけである。司たちは気付いてなかっただろうが、ウェッジとビックス以外の
「何言ってるのよ。今からが楽しい時間じゃない? なんでもいいから早く帰って来なさいよ。お姉さんがあなたの隠された所まで弄り回してあ・げ・る・か・ら」
勿論あなたというのは男なんかではなく、V-22の事である。
ミーシャは降りてくるF-5にテキパキと指示を出し、滑走路が詰まる事の無い様にした。何故エアがやらないかと言うと、V-22を墜とさないように制御するので手一杯だからである。
作戦から無事に戻ってきたF-5が全て着陸した。その数は数時間前にここを離陸した数より相当少なくなっている。今回の戦いで帰らぬヒトとなったのは、何もドラゴンだけではない。
「……流石にここまでは補正が掛かりませんか」
機体から降りて、ヘルメットを地面に叩きつける者やその場に崩れる者を見て、エアがそう呟いた。
『こちら司。滑走路への着陸の許可を願う』
司の通信と同時にV-22のプロペラが空気を切る音が聞こえてくる。次第に明るさを増していく月の横に、黒くV-22のシルエットが見え始めた。
「ミーシャ、今からが正念場です。誘導は任せましたよ」
言うとエアは目を瞑る。V-22の制御に全力を傾けているようだ。
「了解しました。王子、機体を滑走路の中央に持ってきてください」
『了解。左エンジンの調子が悪いんだ。下は横風とかは大丈夫かな?』
「エアが制御しているから大丈夫よ。安心して降りてきて。焦らすのは嫌よ?」
『おいミーシャ。あまりふざけるなよ?』
「あら、レナ姫。いらしたんですの? 失礼しました。王子様を
『! このっ!?』
『わー!? レナさんちょっと!? むぎゅッ!?』
ミーシャの脳裏には無線に向かって殴りかかろうとするレナが浮かんだ。これだからレナをからかう事は止められない。
ただ今回は少し自重すべきだった。
「! マズい!? 司!! 皆を機体から飛び降りさせて!!」
エアが目を開けたと思うと、ミーシャから無線を
司が訳が分からず聞き返すと同時に、V-22が左右に大きく振りかぶり始めた。司はコントロールを取り戻そうと躍起になるが、機体は言う事を聞かずに破滅的な加速度を持って降下する。
ディンゴの怒鳴り声にエアがそう怒鳴り返した。
セットリング・ウィズ・パワーとは、パイロットたちが使う俗語の1つで、ヘリコプターなどの事故原因の一つである。
ヘリなどはメインローターを回して空気を下に押し下げて揚力を得ているのだが、セットリング状態になると下に押し下げた空気がまたローターに戻り、そのままグルグルと循環してしまうのである。
こうなると下に空気を押し出す事が出来なくなり、一気に高度が下がるのだ。低い所を飛んでいた時にセットリングに陥れば、最悪の場合墜落する事になる。
しかもV-22はヘリコプターよりもセットリングに陥りやすく、更に試験飛行中にこの状態になって死亡事故を起こしたという前科もあった。
「自己保存は僕の至上コマンドだよ!!」
そうエアに返してコックピット横のドアを蹴破り、空中に飛び出す。
……はずだった。
「……ドアがビクともしないんですけど!! うわぁ!?」
V-22が回転を始めた。司は横Gに捕まり外殻に叩きつけられる。
放りっ放しの各種武器が機内でシェイクされた。ラティもゴロゴロと転がり、司の目の前で落ち着く。
「! そういやコイツ、壁ぶち抜いてたな!!」
司はラティを掴むとドアに向けて撃とうとした。だが50キロ+横Gを動かす事は司には出来ない。
「エアァ!! 一瞬でいいから止めてぇ!!」
魂の叫びを司が発すると、無線からちゃんと聞こえたようで、ほんの少し回転が弱まる。
それで十分だった。
ドカンッと大音響を響かせドアを吹っ飛ばす。司は回転が強まる前に壁を蹴り、外へと飛び出した。
空には既に星が瞬いている。横をV-22が回転しながら離れていった。
視界はそのまま回転を続ける。遠くの山肌から残光を放つ太陽。王城。そして10メートル下に地面……
もうどうにでもなれと思う司だった。
*
待機小屋の窓を光が覆い、続いて爆発の衝撃波がガラスを叩いた。
「来たぞ……!」
クレドが喉を鳴らす。
部下も一様に体を強張らせ、来るべき戦いに備えた。
「クレド医長!! 怪我人だ!! 治療を頼む!!」
「了解した!!」
程なくして待機小屋に獣人が叫びながら駆け込んでくる。それと同時部下が処置に向かった。
クレドも外に飛び出し、そこらに座り込んでいるゴールドスター隊員の診察と処置を始める。
「クレド!」
7人目でアイクの治療をしてると、クレドは後ろから名前を呼ばれた。クレドが振り返るとフェライがこちらに駆けてくる。
「フェライ! 一体どういう事なんだこれは!? こいつらが全然怪我をしてないぞ!?」
いつも任務が終わるとゴールドスター隊はほぼ全員入院するのがお決まりだったのだが、今日は大怪我どころか、いいとこ打撲がある程度だった。
「単に任務が簡単だっただけです。それで……どうぞ」
フェライがクレドの前に来るとそう言って紙を差し出す。
「なんだよこれは?」
「姫の診断書です……御武運を」
差し出されたその診断書には、体中満遍なく負っているレナの怪我の詳細が所狭しと書かれていた。
「……お、お前……少しは治療してくれたよな?」
あまりの内容にクレドはゾッとしながら言う。だがフェライはニコッとすると、胸を張って言い放った。
「死ぬのはアナタだけで十分です!!」
「このっ!? お前、俺の第一助手として手伝え!!」
「嫌です!! 私はアナタ方獣人と違って体が脆いんです! レナ姫と格闘戦を繰り広げる事など出来ません!!」
「10メートル上から飛び降りてケロリとしている奴が何言ってんだ! 黙って手伝え!!」
「他の連中に手伝って貰ったんです! 人間が生身でそんな事して無事な訳ないでしょうが!!」
「俺1人で死ぬのは嫌なんだ!!」
「そんな考えを持つヒトの巻き添えなんて絶対嫌です!!」
完全に平行線である。
これ以上は無駄だと思ったのか、フェライは「ではこれで」と言い残してその場を去ろうとした。のだが、白衣の裾をクレドにムンズと掴まれる。
「……離して貰えませんかね?」
「現場にいた医師の判断が必要だ。フン縛ってでもいて貰うからな」
フェライはため息を吐いて言った。
「アイク……クロムハーツのドックタグというのは幾らなんですか?」
「ダガーをあしらっている奴な。それ以外はダメだぜ」
「分かりました。それで手を打ちましょう」
「了解した。じゃあ次の戦場で」
「次の戦場で」
フェライとアイクは2人でトントン話を進めた。クレドは完全に蚊帳の外である。
「では忙しいのでこれで失礼します」
フェライが体を背けた。クレドは本気で縛ってやろうと思い、白衣を握る力を更に強める。
「誰が行っていいと……うおっ!?」
「悪いなお医者さん。これも無くなったドックタグのためなんだ」
そのままフェライを引き寄せて、担ぎ上げようとしたクレドだったが、ドックタグに釣られたアイクが邪魔をする。
クレドの手が離れるとフェライは爽やかな笑顔を浮かべ、「それでは……双方の無事を祈っています」と言うと、去っていった。
「……なんて事をしてくれたんだ!!」
「この世は無情なんですよ」
「無常だ馬鹿野郎!! 今度怪我して病院に来てみろ!? 麻酔無しで手術してやるからな!!」
「そ、それはないンじゃないッスか!?」
「クレド医長!」
アイクと問答をしていると、クレド最大の
レナである。
「ひ、姫……今日はどういった症状で?」
クレドの口が引き攣った。遠目から見ると唸っているように見えなくもない。
「そ、そうだな。体中……かな」
対するレナの顔も引き攣っていた。
それもそのはずである。レナが幼い頃からクレドは専属の医者をやっているが、その頃のトラウマなのか、普段なら全然気にしない注射針やメスのようなものにも、クレドが持ったというだけで恐怖を抱くようになっていたのだ。
レナの力が弱かった頃なら、クレドもそれで一向に構わなかったのだが、いつしか彼女の力はクレドのそれを凌駕するようになっていた。
すると彼女が怪我をして入院してくる毎に病院が甚大な被害を受ける。勿論人的被害も目が瞑れるものでは無かった。
特に処置に当たっているクレドは、毎回レナの治療が終わると、どちらが怪我人だったのか分からなくなるほど殴られたり蹴られてりされた状態で、仕事場を後にしている。
麻酔を打っても何故か直ぐに目を覚まし、針から漏れ出す液を見ただけで機材が飛び、包帯を巻こうとすると爪を立てる。これを医者の天敵と言わずになんと言おうか。
流石に最近は王族としての自覚か、クレド以外の者が一緒にいると暴れる事は無くなったが、まずレナの治療に立ち会いたい者がいない事と――誰しも自ら死地に向かう気は無い。しかも守るべき者に殺されるという犬死ならなお更だ――、レナが他の者が立ち会う事を嫌がったため、結局クレドが怪我をする事に変わりは無い。
「……では……今日は暴れないようにお願いします」
「……善処する」
互いに覚悟を決めてその時に望んだ。
*
「いやぁ。今日は朝から賑やかだ。うむ、やはり世界は騒々しいくらいが丁度よいな」
王の間から王さまはテンヤワンヤの騒ぎになっている滑走路を眺めながら言う。
するとそこにメイが手紙を携えて入ってきた。
「王さま。ラビラクト首相、ガング・オーグルマンからの手紙が届いております」
「おお。ガングからだな。奴め、遂に重い腰を上げたな?」
窓から王さまは離れると、メイから手紙を受け取った。
「いえ、どうやら最後通告のようです。王都を無条件で明け渡せと書いてあります」
「……やれやれ。北域学校時代から石橋を叩いて渡るような奴だったが。そんなんで良くあの好戦的な国民を抑えていられるものだ。感心するよ」
「もし受け入れられない場合は議会で承認を受けた後、宣戦布告をすると……」
メイが不安そうな目で王さまを見た。王さまは大丈夫だよと言いながら続ける。
「となるとそう遅くはならないな。よし、こちらも準備をしよう」
「返事を求めていますが、どうなさいますか?」
「こう書いておきなさい。”セルピア先生のテストの時には世話になった”とね」
「? ……分かりました」
メイはそれが手紙に書くような事なのか疑問に思ったが、何か考えているのだろうと判断し、王の間から出て行った。
「……私は道化なんだ。分かってくれ、ガング」
誰もいない空間で、孤独な王はそっと呟いた。
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