さて、城の中を案内されて夕食を取った後、司はエアとは別の部屋に通されたのだが……

「……ねぇ、ここって誰か使っている部屋じゃない?」

「すみません! 片付いている部屋がここしかなくって!」

メイと名乗ったリスメイドはそう言って頭を下げたが、
は案内されている時にざっと10部屋は綺麗に片付いているのを確認していた。

「……あっち部屋の方がいいかな〜なんちゃって」

司が片付いている部屋に行こうとすると「お客様用ではありません!」とメイが行く手を遮る。何度か出し抜こうとしてみたがどう頑張っても人間がリスの敏捷性に勝てる訳がなかった。

「……分っ……かっ……たよ……ギブ」

「最初からそうして頂ければ良かったんです。ではこちらへ。あ、あんまり物を動かさないほうがいいと思いますよ。少し他のヒトより縄張り意識の強いヒトですから。では……吉報を待ってます!」

司を部屋に押し込んだ後、音速でドアが閉まった。━━ガチャリ。

「どうしよっかな〜。……ガチャリ?」

司はドアを開けようとしたがもちろん無駄である。彼はもしかしたらここは遥が用意したドッキリカメラの類ではないかと本気で思いだした。

「ふぅ。これでこの部屋の主が中にいたら、好きだけどそうと言い出せない両思いの小学生をその親友Aが”親友のため”という大義名分の下クラスメイトと結託して冷やかすために閉じ込める「……司か?」のとおなじってうゎぁあああ!? レ、レ、レ、レナさん中にいたの!?」

「あぁ、バルコニーで涼んでいた。それより何故ここにいる?」

司が自分を落ち着けるためにブツブツ呟いていると後ろから声が掛かった。かなり驚いてから振り向くとそこにはレナがいる。確かにバルコニーにいたらしく、いままで開いていた窓が閉じられていた。

レナは司がここにいるのが本当に嫌そうな顔をしている。まぁ勝手に部屋に入られて喜ぶバカはどこにもいないと思うが。

「いやぁ〜。部屋に案内して貰ったらここで……。出ようとしたら外から鍵掛けられちゃったという次第で……。どうにか外に出られません?」

「外には出れるが意味はないだろう。大方父に命令されてやったんだろうから、仮に他の部屋に行った所で眠った所を押さえられてここに連れて来られるのが関の山だ。最悪絡ませた所をカメラで撮られかねない」

「う、簡単に想像できるな。じゃあ、……どうしよ」

「ここで寝てけばいいだろう」

「へ?」

司が何を言われたか分からずにレナを見ると狐はソッポを向いた。

「……ここで寝てけと言った」

ようやく理解した司はしどろもどろになる。

「え、あ、いや、そんな」

「何度も言わせるな………少し恥ずかしいだろうが」

心なしか狐の顔が赤い。司の目に血が行き過ぎてレッドアウトを起こしかけているだけなのかもしれないが。

その後数分間、司はなにか打開策はないかと脳内コンピューターを駆使してみたが結局みつからず、この変な沈黙と微妙な殺気がなかなか厳しいものがあったので渋々寝る事にする。

幸いダブルベッドクラスの大きさのものベッドだったので、端と端で寝ればそんなに抵抗はなかった。

(これは狐、これは狐、これは狐、これは狐)

司は必死で見事なボディを無視する。こんな所で人間じゃないものとやるという人間ヤメマスカ的な事をやる訳にはいかない! と自制心を掻き集めて耐えていた。

司は獣姦というジャンルを知らない。

それだけではなくこれから始まる恐怖も知らない。











必死に自制したおかげで特になにもなく寝入った司だが……
━━ゴスッ

「へぶっ!? な、なに!? どうしたのレナさん!?」

「ぅぅぅぅぅぅうぅうぅぅうぅぅぅぅ」

レナに頭を殴られて起こされた。司はまだ寝惚けていて次の攻撃が見えていない。

━━ボスッ

「ぐぇっ!! ちょ、ちょっと何するんですかレナさん!? 僕が何かしました!?」

「グぅぅるるるるるるる」

今度は腹に正拳を入れられた後、首絞めの憂き目に遭う。

「グ、ぐるじ……助け……」

体が暖かくなるのを感じながら司は意識を失った。











「……はっ 司!? 大丈夫か!? どうした!!」

翌朝、自分の男勝りの寝相を知らないレナにビンタ100連発をお見舞いされて司は起きた。つくづく救われない男子である。











司が白い大理石に囲まれた食堂にレナと一緒に行くと王さまがにこやかに迎えてくれた。

「おはよう司君。昨日はよく眠れたかね?」

「お、おかげ、さまで」

顔が引き攣る度に痛みに顔をしかめ、またその反応により痛くなるという悪循環の中にいる司は、王さまに恨み言を言う事をすっかり忘れていた。

「……今夜は是非別の部屋にしてください。じゃないと暴れます」

「ハッハッハッ。そいつは一大事だ。写真も撮れた事だし部屋は変えるとし……レナ。今のは私の妄言だから気にぐふっ……」

レナがいるのに気付かなかったので王さまは口を滑らせてしまった。それをレナが聞き逃すはずがない。すぐにボディーブローが炸裂した。吐かなかったのは一重に王の威厳を保つためだろう。その前の時点でない気がしないでもないが。

しかし吐くのは我慢できても下半身の方はそうはいかなかったらしい。王さまは思わず屈んでしまった。すると王衣と服の間から写真が零れ落ちる。ひらひらと木の葉のように舞ったそれは、オレンジジュース(モドキ)を飲んでいたエアの前に着陸した。エアは何気なく写真を拾い見る。

「ぶっ!? ごほっごほっ……。……おめでとうございます」

写真を見た瞬間、無表情で吹いた。内容物はテーブルを横断して司へと送られる。彼は避ける避ける間もなくジュースの洗礼を受けた。

「……そんなに楽しい写真だったのかなぁ〜?」と言いながらエアにぶっ掛ける用にオレンジジュースを飲みながら写真をエアから奪い取った司。結局彼も「ブッ!!」と吹いた。彼にとって誠に遺憾ながらエアは避けてしまったが。

「おおおおおおおお王さまぁあぁぁあ? こ、こ、こ、これは?」

「おぉ。なかなかの出来だろう? まさか娘がこんなに大胆だったとはな。何もしなくても絵にぐはぁっ!」

司の震える声に愛しそうな声が返ってきた。途中でレナに殴られ声は途切れたが。

「見せろ」

レナが司に近づいてくる。これは見せる訳にはいかない。

「エア、パス!」

取り敢えずエアに渡して時間を稼ごうとする司。彼はすっかり忘れていた。エアが天邪鬼だという事を。

「これをどうしろと?」

「……エアさん。渡してくれ」

「分かりました」

「おぃぃぃぃぃいいいいっ!!」

レナがエアに詰め寄るとあっさり写真を渡してしまった。目を落とすレナ。そのまま固まってしまう。

「王さま? 今のうちに逃げては?」

「あ、あぁ。そうする事に……ぐほっ!?」

メイの言葉にこそこそと食堂から退室しようとした王さまだったが、その頭にフリスビーのように飛んできた皿が当たり撃沈する。どうやらレナの体には王さま自動攻撃機能なるものがあるらしい。

その後、ほんの少しの間静かになる。誰も動く事ができないなか、レナが静かに再起動する。その際どこでそう配線がショートしたのかとんでもない事を口走った。

「……ここまでしたのなら……結婚もできるな」






遠くでドアの閉まる音がした。


「「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!?」」

城を揺るがすほど━━特にライオンの声は大きく、国境の門番にまで聞こえたと後に言われる━━大音量が食堂の口から出た。

「やったぞ!! 遂にレナが結婚なんて単語を使った!! 女の子に相応しい単語を使った!! メイ、聞いたか!? 結婚だぞ結婚!! 私で王政が終わることを覚悟していたが杞憂に終わったようだ!!」

「えぇ、王さま! 私も嬉しゅうございます! あぁ これからは立派な王妃になるようキッチリ教育しなくてはいけませんね!! それがこんなに嬉しいなんて!!」

王さまとメイは半狂乱である。司はというと……

「なして……どうやったら……こんな……こんな事に? ……誰か教えて……」

茫然自失となった司の肩にエアが手を置く。

「ひ、日頃の、お、行いが……良かったん、ですよ。おおおおめでとうございます。なんか王子様になれるみたいですよ。……っく、く、く」

エアはヒョットコと般若を足して2で割ったような顔をしていた。話の内容的に無表情を装っているらしいがこれ以上無いほど失敗している。

「……別に笑っちゃいけない24時じゃないんだから笑っていいよ。その顔の方がよっぽどムカつく」

エアの口元のヒクつきを数えながら司は言った。すると「で、では、お言葉に甘えて笑ってきます」と言い残し、ギクシャクした動きで部屋を出て行く。完全に見えなくなると直ぐにヒーヒッヒとヒステリックな笑い声が聞こえ始めた。

「……なんで皆はそんな反応をするんだ?」

レナはいつものように釈然としないようである。

「やったな。ハハハ……で、司君の答えはどうなのかな?」

メイと踊っていた王さまが不意に司の方を見て言った。またも食堂が静まり返る。

(え〜やばいやばいやばいやばい。こりゃ半端なくヤバイ。マジで修羅場じゃん。 シュラバ☆ラ☆バンバ! いけね思わず現実逃避しちゃった。ってか王さまの目コワッ! 肉食獣の目って感じだよ! なんでそんなに睨むのかな……と、そんな事はどうでも良くてどうしよどうしよどうしろってんだ! HOW? HOW!? HOW!! WOW全然何も思いつかないや。ここは無難に……)

「お友達から……というのはなしだな。もうレナとは十二分にお友達だからな。あの写真でやっていた事はお友達の範疇を完全に越えているしな」

「はは、そんな事言わないですよ〜」

まさに言おうとした瞬間にライオンに釘を刺される司。確かにお友達以下がやったら親に怒られるような光景があの写真には写っていた。

(……下手の考え休むに似たり、だ。ヤバイヤバイヤバイ! 結婚、結婚? 結婚!? この……人間以外のと? ありえないあり得ないアリエナイ! でもこの世界から抜け出すにはライオンの助けが不可欠で、そいつは何故か異種結婚を望んでいるって事は確かだから……どうすりゃいいのこれって!! どうすりゃどうすりゃどうすりゃ……)

ポンッとまたエアが肩に手を置いてきた。いつの間にか戻ってきていたらしい。

「諦めな……です」

「……」

司は周りを見回した。ライオンの何処か暗いもののある目、メイの期待に輝く目、そしてレナの少しの諦めと不安の混じった目が彼の目に飛び込んでくる。

司は小さく畜生と呟いた。彼に拒否権は最初から存在しない。

「喜んで……お受けします」





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