エア曰く、飛行機を飛ばす方法は……

「スロットル引いて操縦桿を動かしゃどーにかなる、です」

だそうだ。



「それだけで飛ばせる訳ないだろうが!」

「最悪ベイルアウトすれば大丈夫です。それに鳥人のレスキューチームもいますし」

「鳥人がマッハ2で飛べるならこんなもの必要ないと思うけど?」

「……グッドラック、です」

司たちは今、城の目の前にある大通りにいる。既に御触れが出ているので通りには1っ子1人もいない。

道幅が広く、国を囲むベルリンの壁のようなものまで優に4キロはあるのでF−5の滑走路として使おうとしていたからだ。

だが、一応は滑走路としての条件を満たしているものの、舗装はファンタジーよろしく砂利を敷き詰めるだけのマカダム方式である。確かに一般道路から戦闘機が離陸する事もできなくはないが、それはドイツのアウトバーンのようなそれ用に作られた所だけであって、間違っても砂利道を使って良いという事ではない。

「こうなったらもうRI社製の部品が1つでも多く使われている事を祈るしかないな」

本当に彼にできる事はそのぐらいしかなかった。他にできる事も思いついたが、徒労に終わる事は目に見えていたので止める事にする。

と、1度は決心したのだが諦めが悪いのが人間というもので

「王さま、道路沿いの家の窓とか割れちゃうのでやっぱり止めたほうがいいと思います」

他にできる事である悪あがきをやる事にした。だが、ここら辺は王さまの方が一枚上手で「国で保障するからと伝えてあるから安心していい」とあっさり跳ね返した。

こういう状況になった場合、何を言っても無駄だという事は自分の経験則から分かり切っていたので、司はヤケクソになってF−5に乗り込む事にした。

「? なんか僕の思っていたコックピットと随分違うみたいだけど……」

乗り込んでからの彼の第一声はそれだった。彼の言う通りコックピットの中には計器類が一切無く、操縦桿にスロットル、フットペダルが申し訳程度にあるくらいだった。

司はそれに一抹の不安を覚えながらも離陸準備に入る。狐になった自分の耳が入るように作られたヘルメットを被り、座席にあるハーネスに手を通す。その後、ベルトでしっかり体を固定してから酸素マスク(これもちゃんと入る形だった)を装着する。

一通り準備が終わり、さてどうしようかと考えた瞬間にキャノピーが勝手に閉まりだした。それがしっかり閉まるとヘルメットに付いているバイザーに高度、方位、速度などがフライトシムでお馴染みの表示形式で表示される。

「……エースモードオールS取ってて良かった」

少しでも自信になればと、どうでもいい事を呟く。いっその事アナログコントローラーにして貰ったほうが簡単だったかなとバカな考えも浮かんだ。

『こちら管制官。貴機の発進を許可する。幸運を祈る』

「……わざわざ声を下げなくてもいいよ。Roger. 今から離陸する」

他のヒトがエキゾーストから逃れる位置に下がったのでエアがクリアランスを出した。司はそれを合図にエンジンを始動させる。F−5はタービンの回転率を上昇させて十分に空気を吸いこむと、アフターバーナーの雄叫びを街中に響かせた。

「……これでいいんだよね……合っているよね〜……てかこの揺れは大丈夫なのかなぁ……」

ゆっくりと動き出したF−5の揺れに不安になるものの、まだそれだけで済んでいた。だが、段々速度が上がってくるとそう言っている余裕も無くなった。

「が! で! のっ!?」

進む毎に砂利や小石に引っかかって機体を跳ね上げ、司を座席に叩き付ける。ギアはRI社製だったらしくこんなに酷使しても音を上げなかったが、司の方はそうとも言えない状況だ。時間にして十数秒くらいだが、レナのビンタよりもキツイものを断続的に被っている司にとっては永遠にも等しいものだった。

速度計がコマ送りになってくる。時速100キロを超えると遠くに見える市街壁の輪郭がはっきりしてきた。

そこで問題が起こった。

『こちら管制官。貴機が上昇する前に市街壁に衝突する可能性が出てきた。直ちに離陸を中止せよ。繰り返す、直ちに離陸を中止せよ』

エアの言う通り上昇を開始する素振りも見せないのに壁が近づいてきている。司はスロットルを下げようと手を伸ばしたが、最悪のタイミングで機体がバウンドし、スロットルを掴む事ができなかった。もう1度スロットルに手を伸ばすが文字通りタッチの差で離陸決心速度を超えてしまう。

「……あだっ! どうも、いでっ! 無理っぽいかな……こ、のまま、りりり離陸っする! ぐふっ!」

『Wilco. 最悪の場合はベイルアウトしてください。直ぐに救助します。Good luck』

今更だなと苦笑いしつつ司は前をしっかり向く。良くなった彼の視界いっぱいに壁が迫ってきた。

「っがれぇえぇえぇぇぇええええっっっ!!!」

操縦桿を一気に引く。それでも機体は浮き上がろうとしなかったが、いままで司を苦しめていた砂利道が最後の手向けと特大の凹凸面を用意していた。F−5はそれに乗り上げようやく地面から離れ始める。だが壁を越えるには少し高度が足りなく、このままではギアが激突してしまう。

「でぇいっ!!」

司はギアがぶつかる直前に機体をロールさせた。ギアが上に流れて壁に当たらずに済んだ。尾翼も運良く当たらなくF−5は全身無傷のまま異世界の空を舞い始める。

司は機体を水平に戻すとバンク70で急上昇を開始した。

『ナイステイクオフ。でも今後はあまり無茶をしないように』

エアの声が少しばかり上擦って聞こえたのは司の気のせいだろうか。

「そうしたいのは山々だけどそれにはまず道を整備しないとね。で、離陸したけどこれからどうするの? 王さまとかやって欲しい事とかあるの? あ、コブラはなしね。スホーイじゃないとできないから」

『今聞きます。どうしますか王さま? ……分かりました。管制官から……………………ウォードックへ』

「おい」

『あまり気にしないでください。それともラーズグリーズかガルムが良かったですか? それはさておき、そのまま周囲の哨戒を行ってください。最近リービルカの偵察飛竜の領空侵犯が目立つそうです。見つけたら撃墜していいそうです』

「こりゃまたいきなりだな。飛竜……ね。リオレウスみたいなのが飛んでいたらやだな」

『王さまの話を聞く限りではミラバルカンのようです。現れたらサーチ&デストロイしないと死にますよ、だそうです』

かなり意地悪な情報に顔を引き攣らせながら司は装備の確認を始める。残弾数の表示によるとこの機には対地か対空か分からないミサイルが50発も積まれているらしい。地上で機体を見たときにはミサイルはおろか通常爆弾すら積んでいなかったはずだ。

『……………もう何も見ないし聞かないし言わない』

と、言いつつ燃料計に目がいく。減るどころか増え続けていた。

『それは水素を使用したDCアークジェットエンジンを積んでいるからです』

「ごめん、何言ってるのかさっぱり分からない。要はTIEファイターって事でいいよね? シールドは?」

『TIEファイターですよ?』

「頼むからXウィングにしてくれ……っと、レーダーに感あり。このミサイルの射程は?」

レーダーに赤く光点が写る。約50キロ先だ。司は機体を加速させる。

『約1キロです』

「うおーい。どんだけドックファイトさせたいんだよ。一見必殺サーチアンドデストロイ はどこいった。もうサーチはしたよ」

『それは遥様に言ってください。大方司がエースコンバットをやってるのを見て”こんなのできたらいいな”とでも思ったのではないでしょうか?』

「……すごく容易に想像できるな。ウォードック隊ブレイズ交戦エンゲイジ 。これで満足?」

司の数段に良くなった目が飛竜なるものを捉えた。20メートル以上の大きさを誇る黒いソレは重爆撃機のように周囲に重苦しい威圧感を与えながらゆっくりモルタージュの方向に進んでいる。

どういう原理でミサイルロックが掛かったのか分からないが飛竜にロックが掛かったので司は発射ボタンらしいものを押す。

が、司が下で見た通り何も搭載していなかったらしく、なんの反応もない。

「……やっぱ弾ないじゃん!」

苛立って何度かボタンを押すが結果は同じである。無い物は無い。

「……あ〜こちらブレイズ。どうやらミサ……」

司がミサイル切れを告げようとした矢先に飛竜に異変が起こった。真っ白な閃光が翼の付け根辺りで発生し、風切り羽に穴を開ける。遅れて爆発音が司の所まで届いた。

「な、なにが起こ……」

司が声を上げる前に、揚力が少なくなり降下を始めた竜の周りで爆発が起こる。続々と体の一部を失い、痛みに気を失った竜が墜落した。ソレが地面に接した時、今までの閃光と比にならない大爆発が起こる。

「……ヒョウ。オーバーキルしちゃった。ミサイル発射してたのね。……てか最後の爆発は竜の火炎放射を吐く器官が起こしたのかな?」

『冗談を言っている状況では無くなりました。ブレイズ、最後の爆発は敵の爆弾によるものです。性質はナパーム弾に極めて類似しており、街に投下された場合の被害は言わずもがなです。さらにこの爆弾を持った竜を10騎捉えました。8分後に街上空に到達します。すぐに迎撃してください』

「こっちは初飛行だっての……。了解ラジャー。できれば騎兵隊を呼びたい所だね」

司は機体を敵編隊の方向に向ける。さっき言った言葉は本音だが1人でも大丈夫な気がした。そう思えるくらい体の調子はいい。急旋回してもGをあまり感じないというのは予想以上に精神にも負担を掛けないようだ。一瞬、この姿のままでもいいかなと司は思いかけたが、慌ててその考えを打ち消す。

「敵編隊を視認。ブレイズ交戦エンゲイジ 。これってミサイル使いまくっていいの?」

『一発8万円なので大丈夫です。1千発を納入する予定なのでバンバン使ってください』 

「量産すりゃ安くなるけどそれにしたって安過ぎじゃない?」

『どのように安くしたか知りたければ話しますが……長いですよ?』

「結構です。フォックス2!」

エアと話している内に射程に先陣の竜が射程に入ったので司はミサイルを放った。その時司は30センチくらいの超小型ミサイルが発射されているのに気付く。それは細く尾を引いて飛び去り、目標の竜の首筋に当たった。頚動脈が吹き飛び、数十リットル単位で血が迸る。脳のコントロールを無くした体が墜落し爆発した。

一番騎の撃墜に戸惑い爆撃編隊が乱れる。その隙に次々と竜を落とす司。

「……どうにかなるかな?」

『ブレイズ! 後ろに敵機が付いています! 機種は小型の竜! 火炎放射を吐けるようです! 回避ブレイク! 』

司が8騎目を落とし、独り言を呟いた所でエアの無線が入った。直ぐにスロットルを叩き込み右急旋回をする司。直後、後方で紅蓮が踊り狂った。司はそのまま機体を加速させ続け小型竜から距離を取ってからミサイルで落とそうとするが……

ギィィイィイィイイイィイィイイィィィィイイィイィイイイイ!!!

「うわっ!?」

竜がいきなり吼えた。それはサイレンサーを越えて良くなり過ぎた耳に届き、司は思わず耳を押さえて攻撃の機会を逸する。だがそれだけでは終わらなかった。

ギ、イイィィィイイィギイィィイイィイィギギィィィギイギイイッギイイイイイイギィイイイィィイイイイイイイッッッ!!!

竜の咆哮に合わせるように周囲から金属的な音が鳴り響く。同時に小型竜が森から大量に現れた。その数は50以上。レーダーが光点で埋め尽くされる。

「ちょ、ちょ、ちょっとエア!? これはどういう事!?」

『ただ今判断中です! 敵と判断できる行動をしている個体の数は73! そのうち20騎が爆撃部隊の護衛、残りがブレイズに向かっています! 機銃も使用して撃墜してください! 爆撃部隊到着まであと4分!』

「くそ! 初飛行なんだからもっと楽にしてよ! クラフトを街の護衛に回して! 残りのF−5を誰か飛ばせないの!?」

『クラフトを降下させるまで4分半、間に合いません! 替わりに全出力を以って衛星軌道からレーザー照射を行いできる限り落とします! 他のF−5はまだ飛ばすための説明が……レナ様!?』





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