初出撃から1日経ち━━余談だが騒動は結局起こり、革命とは言えないまでも国民全員が参加する大規模なものになった。しかもその大多数は取り敢えず騒ぎたいという司にとっては迷惑この上ない動機による参加であった。
行進から始まり、その行列を目当てに屋台が並び、じゃあお祭りにしちゃおっかと王城の東側にある英王記念公園には観覧車やメリーゴーランドが設置される始末。西側の平和記念公園では60’よろしくラブ&ピースのロックコンサートが開かれ、獣人がプレスリーやビートルズ、ローリングストーンズにT−レックス等の歌を歌っていた。これについては司が疑問に思い王さまに聞いたのだが、北の人間が多く流れてきた時に一緒に伝わってきたものだという事だった。そして最後には王さまが花火職人に急ごしらえで1000発もの花火を作らせ、1晩中ウォルト帝國のダークタワーよろしく花火を打ち上げるという豪華なものになった━━ようやく落ち着いたパクスで司は本格的に動く事にした。

ウォードック隊の編成である。

昨日の規模の空襲に対応できる国はこの世界にはあまりにも少なかった。事実モルタージュにも申し訳程度に鳥人航空部隊があるだけで人員は十数名。これでも小さな国としては上出来なほうだ。もし司たちがF−5で出撃していなかったら数千人の死者が出ただろう。

「……と、言う訳で志願してもらい、ここに集まってもらったんだけど……どうしよ、機体は僕たちのを含めて12機しか無いんだよなぁ。倍率10倍か……ん〜じゃ、適性テストします。並んで〜並んで〜」

今朝司は王さまに御触れを出してもらい志願制で兵を集めようとした。が、10人くらい集まれば御の字かなと思っていたらその10倍以上の137人が集まり、戦闘機乗りになるために決闘を始めるまでに至った。そのためエアが前に使ったマイクとスピーカーでハウリングを起こし、強制終了させたが。

「じゃあ、今からAWACSエーワックスの管制官のエアと……え〜とAWACSってのは司令部みたいなもので……まぁ取り敢えず面接してください。耐え切れたら採用します」

司は集まったヒトたちに少し意地悪っぽく笑う。集まった面々は訳が分からなかったがそのまま試験が開始された。

……が、試験が開始された後、意味を存分に理解する事になる。

エアはまず聞きもしないのに相手の名前を当て、赤裸々な過去を暴いた。これは超高高度でデブリと化しているアポスミサイルの残骸が調べ上げた情報だった。ちなみに情報源の大半はおばちゃんたちの井戸端会議である。

「うわぁあぁあ! もう止めてくれぇ!!」

「おととい出直してきてください。次の方どうぞ」

エアは淡々と相手のトラウマを抉り、それを更に深い傷にしていった。

「司さん! どうしてこんな酷い事をするんですか!」

半ベソになった猫獣人が司に食って掛かる。ちなみに彼は最近抜け出した毛の総数を言われ、ストレス性円形脱毛症の経過予測を長々と言われたらしい。

「いや〜この部隊の隊長は僕なんだけど、状況報告やらなんやらは全部エアがやっちゃうの。だから戦闘機に乗るとイヤでも彼女と交信する訳。……任務をシクると絶対にアレ以上の事を言われるよ。カンッッッペキな鬼畜っでいだだっ!? 背中に! 背中に何か刺さった!」

ネックハンギングされかけた司は必死で言い訳をした。その結果、首吊りは免れたが背中に羽が1本だけ生えることになった。エアが羽ペンを投げてきたらしい。

「いてて……閑話休題という事にしよう。君たち獣人は体力的には全然戦闘機に乗れるんだ。それこそ今の試験に落ちていったヒトもだよ? で、何が問題なのかって言うと……メンタル面? 結局の所戦いなんて気合の問題だから。まぁ運が良くないとダメだし体力が同等じゃないといけないって条件も付くけどね。圧倒的に相手が強かったらどうしようもないからね。と、そうじゃなくって。昨日の戦いは覚えている? 当事者が言うのもアレだけど数こそ違えどこっちの方が断然に有利だったじゃん? でもあそこまで深く攻められたよね。僕たちが欲しいのは街が攻められて家族や恋人に危機が迫っても作戦に従っていられるような精神的に強いヒトたちなの。大事なヒトが死にそうだっていうプレッシャーに勝てるヒトが欲しいの。スタンドプレーをして生き残れるのはゲームの中だけ。目指すのは絶対的なハーモニーだ。じゃないと生き残れないからね。分かった?」

珍しく長々と喋る司に集まったヒトはオォとどよめく。少しは見直したという雰囲気が周りを包み込んだ。

「……昨日は司がスタンドプレーをしまくったと思っていたのですが……私の勘違いでしょうか?」

「う……ま、まぁ例外も多々あるかなぁ、みたいな」

エアがまだ鬼畜と言われた事を根に持っていたらしく、今の説明の矛盾点を見事に突き刺す。そのおかげで完全に説得力が欠けて、会場の調和が一気に乱れた。











「はーい全員終わりました〜。お疲れ様〜てか疲れた〜。ではウォードック隊の隊員を発表します! パンパカパ〜ン! 1番機、僕。TACネームはブレイズ。2番機、レナ・ウィルヘンってえぇえぇえええ!? なんでレナさんがウォードック隊に入っているの!?」

「私が頼んだんだ司。それにこの中じゃお前の次に操縦が出来るのは私くらいだろう?」

どこからともなくレナが現れ説明をする。どうやらレナとエアは共謀したらしい。気を付けなくてはと司は心に刻んだ。

他の面々は突然のレナの出現に呆気に取られたが、直ぐにウォードック隊に入る名誉の増大を感じ大いに盛り上がる事になった。

「……え〜いろいろと釈然としない事がありますが言っても無駄な上に言うとほらぁ、皆さん見てください。これが女の……あ! もう言いませんから! 羽ペンはよして! ……レナさんのTACネームはエッジね。3番は……クルーズ・オーディー! TACネームはチョッパー!」

「よっしゃぁ! やったぜ! 悪いなヤローども。 1番乗りだぜ。へへ、よろしくな司! よろしくお願いしますレナ姫! このクルーズ、全身全霊でお守りします!」

調子いいなぁ、と司は苦笑いしつつ続きを読み始める。

「4番機、ウィロー・ホプキンス! ってあれ、このヒトそういうフラグ立ってたんだ。TACネーム、アーチャー!」

「うおっ! やったッス! まさか入れるとは……感激ッス! 頑張りますのでよろしくッス!」

「あぁ、よろしく。じゃあ5番、取り敢えずの予備隊の発表ね。5番機……」











ラビラクト国の首都ラムザルアは夜も眠らぬ街だ。

かつて北人たちより奪った電気というものを使い街全体が光に包まれている。

「それで……言い訳は終わりか?」

街の中心にそびえる縦長の城の最上階から下を見下ろしながら虎頭が呟いた。彼は背広を着てそれっぽく赤いワインのようなものを持っている。

「い、いえ……ただあの北人に対抗するには……ぎゃ!?」

虎の後ろで必死で慈悲を乞うているのは司とレナが会った時にいた猫獣人だった。虎はそうかそうかと頷きながら振り向き、おもむろに壁に掛かっていたエンフィールド小銃を手に取り猫に向かって撃った。轟音と共に小さな鉛弾が飛び出し、猫の膝頭を打ち砕く。猫は痛みに頭を床に押し付ける事しかできない。

虎はエンフィールドを脇に放り投げて新しい銃を取り出した。リボルバーだが西部劇では絶対に使用されない物だった。
S&Wスミス&ウェッソン M500。.50S&W弾を撃ち出す最新のモンスターリボルバーである。

虎は特に感慨も無く猫の頭にゴリッとマズルを押し当て、引き金を引いた。

無音になる部屋。一切の音が無くなり5感の1つを失ったのではないかと虎は錯覚する。事実あまりの大音量に聴力を一時的に失っていた。

反響が聞こえるようになると風穴の開いた猫はビクッビクッと震える事もしなくなった。

「……まぁ他の銃よりはマシだな。いいだろう、契約を結ぼう。モルタージュが新型飛行兵器を入手したとの報告もあったしな。それで、見返りとして俺たちは何を差し出せばいい?」

虎が窓に向かって話しかける。そこにはミスターRの姿が映っていた。





前へ     戻る     次へ

トップに戻る