レナからは王都のパクスは閑静な街だと聞いていた司とエアだったが……

『ご結婚おめでとう〜!!』


街に入るなりカトリーナ級の豪雨(紙吹雪)と雷鳴(金管楽器とドラムと歓声)に見舞われた。

「レナさん レナさん。誓いの儀ってこっちの事?」

司は微笑んでいたが青筋を人間の限界まで立てていた。

「い、いや、これは……いったい何が……」

対するレナはしどろもどろである。

「レナ!! 私のかわいいレナ姫!! よくぞ未来のフィアンセを選んだ!!」

割れんばかりの大歓声の中でもその声は大きく響いた。もしかしたら遥よりも大声かもしれない。

「父上っ!! これはどういう事ですか!?」

レナも負けじと大声を張る。すると以外な所に影響が出た。

「司」

「ん、どうしたのエア
悪いけど今はそれでころじゃ……」

「すみませんがオーバーヒートします」

言うなりエアは倒れそうになったので司は慌てて支えた。

「ちょ、ちょっとエア!? おい! この世界じゃ君が命綱なんだからね! しっかり……」

「……私が自殺をしようとした理由は多人数による苛めを受けていたからです。なにかやられる度にクラスメイトは歓声を上げました。どうやらこういう状況になると過去がフラッシュバックしてくるようです。これには……対処不能です」

言い終わるとエアは目を閉じた。一瞬壊れたのかと思った司だったが人間で言う所の寝息を立て始めたので胸を撫で下ろす。

そんなやり取りにレナは目もくれず、当面の目標の姿を探し回る。

「レナ!! さぁ私の胸に飛びごふうッ!?」

群集を掻き分け現れた父親と書いて標的と読む物体の胸にレナは飛び込んだ。足からではあったが。

レナの渾身の一撃は父親の巨躯を地面と平行に吹き飛ばすのに十分な威力があった。

一瞬にして広場が静まり返る。父親の姿は司には見えなかったが相当な距離を飛んだことは雰囲気で分かった。

メイド服を着たリスがレナパパに駆け寄り、何かを調べた後声を上げる。

「12ヤード。新記録です! レナ姫!」

途絶えていた歓声が爆発した。レナは頭を抱える。なんとなくだがその気持ちは司にも伝わった。

「よくやったレナ! フィアンセを決めるだけでなく新記録まで作るんだからな! さすが我が娘!」

直ぐに跳ね起きた2メートルは確実に超えるであろうというライオンがようやく司にも見えた。てかレナさんはこれを吹き飛ばしたのかと改めて力の違いを思い知る。

ライオンが司の存在に気付き近づいてきた。その時、司は親子で別種族ってありなの? と思ったが一瞬でどうでも良くなる。ライオンに思い切り背中を叩かれたからだ。そのまま彼は民家まで吹っ飛ぶ。彼に支えられていたエアも吹っ飛んだが意識が無くても姿勢制御ができるようで、近くに無事着陸する。

「いやぁお目が高いですなフィアンセ殿! レナの……おや? フィアンセ殿はどこに行った? ……お、お、お?」

司に挨拶をしようとして吹っ飛ばした冠つきライオンはレナに引っ張られ路地裏に消えていった。

音はデフォルメに表現しようとしてもベキャッとかズグッとかと生々しく響く類のもので、1分程続く事になる。やがてドサッという音を最後に元の静かな場所に戻っていった。

レナが1人で出てくる。入れ替わりでリスメイドが路地に入り、肉塊を引きずり出した。レナパパはなぜか満足そうな顔をしたまま運ばれていった。







「じゃあ取り敢えず家にでも行くか」

国民が落ち着いた頃、レナはそう言いながらへばっていた司を助け起こした。そのまま司たちを中央にそびえる城へと案内を開始する。

「……あのヒトがレナさんのお父さん?」

市街壁の門から城門まで真っ直ぐ続く大通りを歩きながら司は言った。大人たちは大分落ち着いたが子供はそうとは言えなく、司たちの周りを駆け回っては離れていく。そんな様子を本当に愛しそうに見ながらレナは答えた。

「まぁ、そうなるな。私は養子という立場だが」

「養子……それって大丈夫なの? 血筋を大事にするんじゃないの? 王政って」

「そんなことは知らん。ここはここのやり方で通っているんだ。まぁ当時はいろいろ問題になったらしいが……」

「ふ〜ん。ま、そうなんだろうね。……それにしてもこの国って今までよくもっていたね。なんというか、僕の国よりもお祭り好きが多いからかな?」

「……言うな」

戦闘機の離陸ならできそうなくらい長かった大通りの終点に近づく。城門には衛兵が数人立っており、司たちが見えると敬礼をした。風貌は城にあまり似合ってなく、南北戦争中の北軍のような制服にシングルアクションアーミーのようなものを腰にぶら下げている。その中の1人の狼獣人が代表として挨拶をしてきた」

「お疲れ様で……す。レナ姫。そしてよくぞいらっしゃいました……司様、エア様。お、私はウィロー・ホプキンスっす。あ」

どうやら敬語が苦手らしい噛みまくる狼獣人にレナは優しく声を掛ける。

「ウィロー、いつも通りでいいぞ。あの口癖のほうが私は好きだな」

素でそんなことを言われ灰色の毛まで赤くなりそうになるウィロー。仲間たちは指笛を吹き囃し立てる。

「は、はい。分かりましたっス。では司様、エア様。身体検査があるんでこっちに来てほしいッス」

レナとは一旦別れ、城門の詰め所で検査を受ける司とエア。能天気な話を交えながら検査は進んだが、危険なものは未知の物であるはずのエコガンを含め全て持っていかれる。どうやら硝煙の臭いを嗅ぎ取ったらしいなと推測し、錬度が高い事を確認させられた司だった。

「では呼ばれているんで国王の間に案内するッス」

と言って案内を開始するウィロー。この頃にはお互いタメ口のような感じで喋れるようになっていた。

「ここだけの話、国民の男子の憧れだったんですよ。レナ姫は。俺も司が羨ましいッス。そんな事言うと後でマリーにどやされそうッスけどね。あ、噂をすればッス。レナ姫〜! こっちッス〜! ……そういえば司は人間ッスけどやっぱり<北人>なんスか? ここらじゃあまり聞かない名前ッスし」

「いや〜もっと全然遠い国から来たんだ。しかも帰れないときた」

「同情するッスよ」

少し前を歩いていたレナが一団に加わった。それから司たちは王の間までモルタージュの事をずっと話し込む事になった。

それによるとモルタージュは日本とスイスをごっちゃにしたような国で交易や金融、錬度の高さから周辺諸国に傭兵を出す事を中心に外貨を稼いでいたようだ。また、この国の裏の山脈に良質の金鉱があり、なんと世界の約半分の金がモルタージュから産出しているとのことだった。大国が欲しがるのも無理はない。だが今までは、その莫大な資金を背景に各国の大臣等を買収し、戦争を起こさず、また万が一戦争が起こった場合は共闘関係を結ぶということで平和を保ってきた。しかしそれは周辺諸国が独立して存在していた時代の話で、今のようにほぼ全ての国が属国と化している状態では意味がないだろう。という話だった。

一通り話終えると王の間の前に着く。司は無駄に荘厳な感じの扉があるとばっかり思っていたが、目の前の扉は機能的な感じのするオーク調のものだった。ウィローはさぁ終わったとばかりに「それじゃ、俺はここで。司!今度酒でも一緒に飲もうッス!」と言って駆け足で仲間に自慢しに戻っていった。

「未成年だからダメですよ」

「うわっ 起きてたの!? てか甲斐甲斐しくおんぶしてあげてるのにスルー?」

「それを言った時点で甲斐甲斐しくなくむしろ下心丸出しなので喉まで出かかった感謝の念は飲み込むことにします」

エアはそう言うとゴクンと音を立てたので司は背負い投げを実行した。が、空中で前転し綺麗に着地をするエア。姿勢制御のプロであるアビオニクスを放り投げる事は無意味でしかない。

「無駄な事をしてないで入るぞ。……それからあれをきっちり絞らなくては」

レナが扉を開く。




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