時は昨日まで遡る。

「……ポケモンに会えない」

それが隣町に着いた時のトオルの第1声だった。


事実トオルは彼の町”ヨウコウタウン”からここ”ニュースギタウン”まで1度もラルトスをボールから出していなかった。だが実際にはコラッタなど弱いレベルのポケモンが何度かちゃんと彼の前に現れていた。それの目の前を自転車で素通りしたのはトオルである。ポケモントレーナーの道を進むのならまずは耳に標準装備してあるヘッドホンを外す事が大事であろう。

「……ポケモンセンターにでも行こうかな。でもチェックインには早いしなぁ。でもいいや。行って寝る」

彼にはポケモンを育てる気があるのかとても疑問である。











トオルはポケモンセンターに着くと早々と寝始めた。チェックインする時、ジョーイさんにやたらと顔を見られたのでバレたのかと戦々恐々したが、特に何も言われなかったので胸を撫で下ろし、そのまま個室に直行したという次第だ。それから夕食の時間の知らせを聞くまで眠り続け、そのチャイムで起きるとエントランスに設置されている食堂へと向かう。

黙々と1人で食事をしていると向かい側の席に男の子が座り、話しかけてきた。

「君ってポケモントレーナー?」

この問いにトオルは顔も上げずに答える。

「……それ以外がここで食事をしていたら結構問題になると思うけど」

ケンジに見せていた態度とは打って変わって冷淡なものだった。

「あぁ、そうだね。確かに問題にだなぁそんな事になったら。ってそんな事どうでも良くて。俺、ユウキってんだ。ポケモントレーナーには昨日なったばっか。宜しく」

「……よろしく。僕はトオル」

「随分嫌そうだね。よっし仲良くなった事だし。あのさ、なんで昼からずっとポケモンセンターにいるの? 見たとこ寝起きでしょ? ポケモンのレベル上げに行ったりとかはしないの?」

「……うん、メンドクサイからやんない。僕はポケモンマスターとかブリーダーとかその他の事に興味がないから。まぁトトポケバとかには興味はあるけどさ。なるたけポケモンの関わらない仕事に就きたいの」

「え〜!? なんで!?」

ユウキの大声がポケモンセンターに木霊した。ジョーイさんがこころなしか睨んでいるように見える。

「……いきなり大きい声出すなよ。ほら皆見ているじゃんか」

「なんでなんでなんでなんで!? なんでポケモン関係の仕事に就きたくないの!?」

「お前はナンデ君か」

「なにそれ」

「マイキーの1発キャラ」

ユウキが記憶からマイキーの1発キャラの情報を引き摺りだそうと躍起になっている間に、トオルは静かな食事の時間を堪能する事ができた。

「う〜ん分からん。てかそんなのはどうでも良くて! なんで?」

「……お前はそんな事を聞いてどうするんだよ」

「別に。ただ純粋に知りたいだけ」

「……じゃあ教えてやる。興味がないからだ。ポケモントレーナーでいる事も、ポケモンバトルで勝つ事も、ジムリーダーを倒す事もポケモンを集める事もポケモンリーグに出場する事もぜーんぶ興味がないね。言ったよ。これで満足?」

「……荒んでいるね」

「結構。ねぇ、僕は1人で食べたいんだ。君はそこを退く気はある? 無いなら僕が他の所に行くけど」

トオルが席を立とうとするとユウキが慌てて止めた。

「まぁまぁまぁまぁ! 気を悪くしたなら謝るよ。だから落ち着いて。ドードー」

「僕は馬でもドードーでもないよ。で、なんで話しかけてくるの? なんか楽しい? 僕と話していて」

「あ〜、いやさ〜。実はここに来てから凄く気になる事があってさ。本人はそんな事している素振りは見せないし、更にポケモンに興味がないなんて聞いたらますます聞かずにはいれなくなって。……なんで頭の上に浮かべてるの? 君のラルトス」

「え? そんな事してな……」

トオルがその言葉に上を見るといつの間に出ていたのか、ラルトスがテルテル坊主を逆さに吊るした要領で彼の目と鼻先に浮いていた。

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

トオルが驚いて叫ぶとそれに驚いたラルトスが仰け反って天井まですっ飛んでいく。少女の声を出したそれはそのまま止まることができずにぶち当たり「いったぁ〜」と言って頭を抱えた。

「……あのラルトス……今、喋らなかった?」

ユウキが目を丸くしながらトオルに尋ねた。だが、モンスターボールから自分で出した事のないトオルも初めて知ったので、一緒に驚く事しかできなかった。

2人が固まっているとラルトスがフワフワと降りてきて、人間の理解できる言葉でを放出しだした。

「ちょっとあんた! いきなり目の前で叫ばないでよ! てか気付くの遅すぎ! ポケモンに関心が無いとかそういうんじゃなくて不感症よ! もう既にその域に達しているわ! 大体なんで野性のポケモンが出てきてもその前を素通りしているの!? 挙句の果てには『ポケモンに会えない』ですって!? そのiPODとヘッドホンは今すぐ壊すべきだわ! それにどっからそんな旧時代の……」

「君達、ここは皆で利用する場所だから騒いじゃ……」

呆気に取られているトオルとユウキの前でラルトスは延々と御託を並べる。それが余りにも長く、且つ五月蝿かったので遂にはジョーイさんが窘めに来た。ラルトスは慌てて口を閉じたのだが、喋っている様子はしっかりジョーイの目に焼きつく。要するに手遅れだった。ジョーイは口を開けたまま固まる。

そんな状況なのにラルトスはどうにかごまかそうとトオルの側に寄り「これ、僕の腹話術なんだ〜」と苦し紛れの工作をする。ジョーイはトオルを見るが勿論肯定の意は返ってこない。

ジョーイさんは静かに息を整える。動揺しているのは彼女も一緒かとトオルは思ったが、その後の彼女の行動はトオルの考えていたものとはかなり食い違っていた。

「総員臨戦態勢を取れ! ハイギフテッドだ!」

ジョーイはそう叫ぶとモンスターボールからストライクとハッサムを繰り出す。それから腰のポーチから取り出したシグザウアーP239をラルトスに向けて構えた。他の仕事をしていた職員も似たような傾向のポケモンを繰り出し、受付にいたマスコットキャラのラッキーやハピナスもたまごばくだんを投げる構えを取る。

「……やっぱバレた?」

ラルトスが冷や汗を流しながら言った。トオルは標的になっているらしいラルトスを置いてエントランスから続々と逃げ出すトレーナー郡に混じって逃げ出したかったが、なにか武器のようなものを持っているジョーイさんや、目の前で鎌を研いでいるストライクがそれを許してくれるとはどう楽観的に見ても思えなかった。それはユウキも同じらしかったので心の中で小さく謝る。そちらもどうにかなった場合は許してくれそうになかったが。

「君、そのラルトスはどこで捕まえたの?」

ジョーイさんが営業スマイルでトオルに聞いた。状況が状況だけに凄みが付加されていて逆にそれがトオルには怖かった。一瞬正直に答えようかとも思ったが、その場合は最悪の事態を想定しないといけないな、と白衣の天使の微笑みを見ながら却下する。

「……そこの草むらで……」

「あ! 私をスケープゴートにするつもりでしょ! そうはいかないんだからね! 私はCPSAから新トレーナー用に回されたポケモンよ! こいつは私がハイギフテッドだって知ってて盗ってったの!」

「知らないよそんなの! なんだよハイギフテッドって!」

ラルトスの紡いだ言葉はトオルの全く知らない単語だったが、勿論ジョーイさんはジョーイさんであり神でも超能力者でもないので事実は分からない。だから1番手っ取り早い方法を取る事にした。

「……取り敢えずトレーナーさんの方はCGAまで同行してもらいます。それでハイギフテッドのあなたは残念だけど……」

「生かしておく事はユートピアの崩壊に繋がる、でしょ? CPSAにいた頃に監査員に耳に胼胝ができるくらい聞かされたわ。まぁ直接じゃなくてできない部下を叱る上司のダミ声がモンスターボールの中まで響いてきただけだけど……それにしてもあの監査員、無能だったわね。黙ってりゃ普通のポケモンだと思う辺りが仕事に力を入れていない証拠だわ」

ジョーイさんは標準をラルトスに合わせたまま撃鉄を起こした。

「その監査員の報告は後でする事にします。……ではなにか最後に言う事は?」

「ハン。私をそこらの自然発生したハイギフテッドと一緒にしないで欲しいわ。私はできるべくしてできたデバッカーミトラス様よ。ハードウェアはラルトスのものを間借りしているけど、それでもあんたみたいなクローンに殺られる事はないわ。絶対にね」

「言ってくれますね。では試してみましょうか」

ミトラスと名乗ったラルトスにジョーイさんは躊躇うことなく引き金を引く。銃を初めて見るトオルとユウキの目の前でマズルフラッシュが炸裂した。その閃光と大音響に2人は悲鳴を上げて床に伏せる。ジョーイさんはそれに構わず9ミリパラベラム弾を撃ち続けた。全弾を撃ち尽くし、スライドが後退したままになるとその姿勢で固まる。

ミトラスは1発目で後ろに吹っ飛び、2発3発とパラを受けては跳ね、計9発の弾丸を受けた時点で動かなくなった。

「……排除完了。あなた達はその2人を連行して。そっちの人は直ぐCGAに連絡。残りは事後処理よ。急いでやって」

「「はい」」

ジョーイが指示を出しながら銃に新しいマガジンを入れ、セーフティーを掛けてポーチにしまう。それからポケモンをボールに戻すと、本来の職務と正反対の行為の産物としてできたモノを一瞥する。それを尻目に放心状態になっている少年達はセンターの職員に引き起こされて何処かに連れて行かれようとしていた。残りは迅速に薬莢などを片付けや苦情の電話などの対応に追われている。

「あなたはちょっと運が悪かっただけ。でも安心して。ハイギフテッドの意識は消えるけど、普通のポケモンとしての意識でなら体ごと再生してあげるから」

ジョーイがそう言いながら動かぬミトラスを抱え上げようとした時に異変が起こった。

「それはご親切にどうも。でも私は無傷だからその心遣いはいらないわ。でも今の恩はちゃんと返してあげる。取り敢えず……」

ミトラスが起き上がる。それと一緒にパラパラと9ミリ弾が零れ落ちた。どうやらねんりきで全弾止めたらしい。事態を悟ったジョーイが1挙動でシグを引き抜くが、それを待つミトラスではない。

「寝ていいよ?」

「……あぐっ!?」

ミトラスがねんりきでジョーイの脳を直接揺らし脳震盪を起こさせる。不測の事態に気が付いた職員が応戦しようとするがその前に全員昏倒させてしまった。

「……ふう。一仕事だったわ。この体の処理能力じゃこんな事続けてできないわね。せめてサーナイトくらいにはしないと。……で、ちょっと。トオルだったっけ? マスター。いつまでも腰抜かしてないでさっさとこのポケモンセンターから抜け出すわよ。ほら立って!」

ミトラスにそう急かされるが、訳の分からない事の連続で頭がオーバーフローし全く反応を示さなかった。

「たく。これだから良きユートピア市民は……。不本意だけどあんたが私のご主人様なんだから離れる訳にはいかないのよ。ま、野生のポケモンとして動いてもいいけどそれよかはトレーナーのポケモンって方が何かと便利だからね。……ちょっとトオル! 私を入れていたモンスターボールを貸して!」

トオルはミトラスの気迫に負けて何も考えずにモンスターボールも取り出した。彼女はそれをねんりきでぶんどると回復装置にパソコンを動かし始める。

「……空のモンスターボールなんかを回復させてどうするの?」

トオルが好奇心を持って放心状態から立ち直った。その際、このラルトスは喋るものだと無理矢理思い込む事にする。ミトラスはチラッともトオルを見ずに視線はパソコンに固定したまま答えた。

「中にポケモンがいないんだから回復しようが無いでしょ。大体そのポケモン自体は回復しないわ。ポケモンの頭にはね、記憶媒体が入っていてそこに経験したものがどんどん蓄積されるの。元から持っている海馬なんかを別にしたバックアップメモリみたいなものね。ポケモンセンターではそのバックアップメモリーを引き出して同種の予備ポケモンに入れ替えてトレーナーに返す訳。つまり同じ記憶を持った別人をそれと気付かずに連れ回しているのよ。間抜けな話よね。瀕死になったポケモンを治そうとポケモンセンターに走っていったらそのポケモンは廃棄されちゃうんだから。しかもご主人様は他の女とヨロシクやっているときているわ。浮かばれないでしょうね〜その捨てられた子たちは」

最初は何を言っているのか分からなかったが、ポケモンも人間と同じ生物だと認識してみるとトオルにも理解する。

つまりいくら不思議な生物であるポケモンだったとしても、生き物であるという制約から逃れられる訳ではないという事だ。例えばポケモンの腕が切り落とされたとする。それをそのままくっ付けようとするには当然の事ながら大手術が必要だ。第一、まだ子どもであるトレーナーが切り落とされて別信号を放つようになった腕をちゃんとモンスターボールに収め忘れないでポケモンセンターまで持ってくる可能性など微々足るものであろう。
無いものをくっ付ける事はできないし、必然的に大怪我をする事の多いポケモン全部を大手術で治すだけの人手や金はセンターにもCPSAにもない。

初期のユートピア運営委員会”コントローラー”もこの問題に大いに悩んだ。それならわざわざ大掛かりな処理を必要とするポケモンの世界にしなくても良いのではないかという話も当然出たが、情報統制のし易さや人間の闘争本能の処理、何より国民の適応のし易さから言ってこれ以上の案は出てこなかったので作られる事になったのだ。現にアメリカに幾つかあるただ放射能から住民を守っているシェルターから、終末感から行われる犯罪の増加や暴動などで機能停止したシェルターもあるという話も届いている。

そんな時に考案された治療法が”レプリカ・スワッピング法”だった。内容は先刻ミトラスが言った通りで、予め用意していたスペアに記憶や感情を移し、新品状態でポケモンを返すというものだ。これならスペアさえあれば手術の必要は無く、オリジナルからデータのダウンロードしてスペアに移すという作業もものの3秒で終わってしまうため、非常に効率のいいものとなっている。

2007年と2009年の2回に渡る世界規模の飢饉によりバイオテクノロジーは飛躍的に進歩した。特にFAOとWFPが共同で発令したバイオ技術独占禁止法によって特定遺伝子の使用制限解除が各国の企業や研究機関の技術水準を押し上げる事になった。その成長の中で発育促進技術なども確立されたのでレプリカ・スワッピングをやる下地は既に出来ていたという訳だ。

もっとも、ポケモン自体がそうした企業により作られたモノだったので、当然の帰結と言えば当然の帰結だが。

「……俺、もうポケモンセンターは使わない」

トオル程では無いにしろ、少しは理解したユウキがそう言った。するとミトラスが「止めといたら?」と言う。

「ポケモンが人間並みに長生きなのは何でか知っている? 元々長生きなのもいるけど小さいポケモンや虫ポケモンなんて本来なら1年とか3年とかで死んじゃうわ。それがウン十年って生きているのはポケモンセンターで体を取り替えているからよ。記憶や愛着なんかは忘れないんだから割り切る事をお勧めするわ。いくらポケモンと云えど長生きしたくない奴なんて人間以上にいないんだから。……よし、終わりっと。はいトオル。これ改造してポケモン以外も入れれるようにしたからどんどん荷物を詰め込めるわ。取り敢えずそうね……このセンターの備品を粗方持って行こうかしら。ほら、付いて来て! アンタの身の安全をいつでも守れる訳じゃないんだからね! 自分の身は自分で守る! これがこれからの鉄則よ」

「あ、ちょッ!? ねぇ! なんだよそれ! まるでこれから僕が命の危険に晒されるみたいじゃんか!」

フワフワとセンターの奥に消えていこうとしたミトラスを追いかけようとトオルは立ち上がった。

「みたいじゃなくてそうなの。当たり前じゃない。私と旅をするって事はそういう事なの」

ミトラスは事も無げに言ったが、トオルにとっては十分に事だった。

「なんだよ! 僕は別にポケモンマスターなんかになるつもりは無いし、この義務教育が終わったらポケモンとは関係の無い仕事に就くんだ! それがなに!? 君みたいな化け物の親になったからって命を狙わ……」

トオルは叫びながら追い掛ける。そしてミトラスが止まった部屋に入ったが、その瞬間に今まで叫んでいた内容をすっかり忘れてしまった。

「なんだよ……これ」

「トオルは本当になんでが多いわよね。そのまんまポケモンセンターの実態って奴よ」

2人の入った部屋は所謂いわゆる警備室のようなものだった。ただしその管理範囲はポケモンセンター内部に留まらず、このニュースギタウン全体をマークしているようだ。その様子が部屋の前方にある巨大なディスプレイから見て取れる。地図の上には光点があり、その1つ1つにトレーナーの名前と持ちポケモンが表示されている。どうやらこのシステムがスペアのポケモンを要求したりするようだ。ここまで高度な文明機器を見たことの無かったトオルは口をあんぐりと開けて立ち尽くしてしまう。

「ラッシュ時にはこんな表示役に立たないんだからここまでデカいディスプレイを作んなくてもいいのに。人間ってやっぱり分からないわ。で、ここは関係ないの。こっち来て」

ミトラスが動いたのでトオルはそれに従った。直ぐ隣の明かりの無い部屋に入ると、ミトラスがねんりきでスイッチを押して電気を点ける。

「これ、さっきジョーイさんが使っていたのと……同じもの?」

「そ。銃っていうの。これは人間の作った武器の中で最も普及しているものよ。ちょっと失礼」

部屋の中には所狭しと銃が置いてあった。トオルには種類などさっぱりだが、物凄く金が掛かってそうなのはなんとなく理解した。

「H&K祭りね。あ! MP7がある! これは貰いだわ。VP70もストック付きであるし、HK69もあるわ。HK416やPSG−1、果ては幻のXM8まで……ガンマニア冥利に尽きるわホントに」

ミトラスは言いながらポンポンボールの中に銃をしまっていく。相当銃が好きなのか、その顔はとても嬉しそうである。

「このポケモンセンターは籠城戦ろうじょうせんでもやるつもりなのかしら……お、P7を発見! これなら暴発の危険も少ないしね。はい、トオル。これがアンタの武器よ」

「うわっ!」

弾薬やマガジンもせっせとボールにしまっていたミトラスが不意にトオルに銃を投げて寄越したので慌ててキャッチした。それは先程ジョーイさんが使っていた物とは似ても似つかないもので、試しに彼女がやっていたように握ってみるとグリップ部に付いていたビラビラが凹んで銃の中でガチンと音が鳴る。

「それがスクイズ・コッカーっていう機能よ。そこを握ると撃芯が起き上がって撃てるようになるの。逆に言うとそこをしっかり握らないといけないから普通の銃に慣れた人には撃ち難いかもしれないけど、銃の存在すら知らなかったトオルには関係ないわね。試しにあっちに向かって撃ってみたら?」

ミトラスが開いたままになっている扉を指した。奥に見えるディスプレイの上で1つの光点が2つの光点の方に移動している。取り敢えずやる事の無いトオルは何気なく引き金を引いてみた。

「動ぐぁ!?」

「え……?」

奥のディスプレイの光点が重なった。その瞬間に職員が飛び出してくる。しかしその場所が悪かったようでトオルの放った銃弾が彼の右胸に飛び込んだ。職員はそのまま後ろのコンソールにもたれ掛かり、ズルズルと床に倒れる。遅れて血溜まりが広がってきた。

「Bull’s eye! なんだ、やれば出来るじゃない! 少しは見直したわトオル。さすがは私の親ね!」

ミトラスは喜んでいるが当のトオルはそう手放しに喜ぶ事ができない。

なにせ今彼は生まれて初めて殺人を犯したのである。

「え……あ……うそだろ……僕………」

発狂しかかるトオルにミトラスはため息を吐いた。

「……やっぱダメかぁ。ステレオタイプな事して貰っている暇は無いからねぇ。取り敢えず寝てて」

そう言うとミトラスはトオルを気絶させる。

「さてと……トオルにはあとで条件付けさせるとして。ちょっとアンタ! 手伝ってくんない!?」

「え!? 俺!?」

銃声に釣られて様子を見に来たユウキが人身御供に選ばれた。






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