「うわぁ!?」

トオルは汗びっしょりで跳ね起きた。息が荒い。どうやら悪い夢でも見たようだ。

(そうだよな。僕のラルトスが喋って銃撃ってジョーイさんも銃撃って僕も人を……)

「おはよう、トオル。って言ってもまだ夜だけどね」

ミトラスの声が直ぐ近くでする。慌てて首をそちらに向けると焚き火に小枝を焼べている所だった。

「……じゃああれは現実だったんだ」

「何て言った?」

「いや、何も。それよりここはどこ?」

「どこかしらね。確かなのはニュースギタウンとイソゴタウンの間だって事。全く、こっちはニャースの手だって借りたかったのに人撃ったぐらいで良心の呵責に悩ませられないでよ。おかげで余計な手間が掛かったわ。あ、そうだ。こいつには後でお礼を言っといてね。ここまでアンタを運ぶのを手伝ってくれたんだから」

ミトラスが言いながら後ろで寝ているユウキを指した。彼は気持ち良さそうにイビキをかいている。

「なんでコイツがここにいるの?」

「だからアンタを運んで貰ったって言ったでしょ? それにあれよ。コイツも私達とほぼ同じ状況に陥っているからね。これからは助け合って先に進むって事に決めたから。ね、リオ」

「うん! そうだねお姉ちゃん!」

5歳児くらいの甲高い声のした方向をトオルが見ると、そのまま固まってしまう。

「……あとどれくらい喋るポケモンのお化けに会わなきゃいけないの?」

「あ! お兄ちゃんひどい! ボクの事をお化けって言ったぁ!」

そう叫びながらリオと呼ばれたリオルが、トオルに向かって突っ込んできてポカポカと殴り始めた。トオルの方はやっぱり呆然としていて、されるがままとなっている。

「君達っていったいなんなの? ハイギフテッドって何?」

ミトラスが喋った時よりも早い段階で思考を回復させたトオルが尋ねた。人間は慣れである。

それに対してミトラスは少し考えてから答えた。

「う〜ん。何って言われたらポケモンとしか……ま、頭の中身は違うけど……あ、リオ。アンタの親を起こして。まとめて説明しちゃうから」

「分かった!」

リオがユウキを叩き起こす。寝惚けた彼の目の前でリオが「おはよ〜!」と言った後の反応は凄まじく、一気に5メートル後ろの木まで後ずさりしたのはなかなかの壮観だった。

「お父さんに嫌われた〜!」

「よしよし。泣かないの。お姉ちゃんが替わりに面倒見てあげるからね」

ユウキの反応にかなり傷付いたリオがミトラスに泣き付いた。相当シュールな光景である。

「お、お、お、俺のリオルが! 俺のリオルがぁ!」

「お、落ち着くんだユウキ! 僕も落ち着くから! ほら、息吸って! ス〜ハ〜」

「ラマーズ法をやるなんてアンタらはオシドリ夫婦か」

「「誰のせいだと思っている!?」」

「あら、本当に息ぴったし」

「お父さんとお兄ちゃん……怖い」

ミトラスのチャチャが入りながらもどうにかトオル達は落ち着いた。ユウキはパニック状態から抜け出すと逆に嬉しくて興奮状態になった。

「だって喋るんだぜ!? 俺のポケモンが喋るんだ! うぉ〜映画やR団のニャースだけかと思っていたけどホント〜に喋るポケモンがいたんだ! しかもそれが俺のポケモン! なぁ信じられるか!?」

「取り敢えず落ち着いて。今からこいつらがなんなのかミトラスに聞くから。あと助けてくれたお礼は言うけど馴れ馴れし過ぎ」

「何そのテンションの下がり具合」

「これがデフォルト」

このまま不毛な会話が続きそうだったのでミトラスが間に割って入る。

「ハイハイそこまで。じゃあ私達が何なのか説明するわ。ん〜と……アンタ達ってこの世界の成り立ちをどんくらい知っている?」

この問いにトオルとユウキは同時に身を強張らせた。ミトラスは呆れてから話を続ける。

「……少しは授業を聞いてあげないと先生が可愛そうよ。まだ最初の生物は発見してないとして、古代ポケモンが絶滅した後、生き残っていたミュウやその他のポケモンから今のポケモンや人間ができた……ってのは思い出せた?」

「「はぁ、まぁ」」

「まぁいいわ。それが表向きの学説ね。正直この設定で信じ込ませようと思った連中にも信じたアンタ達のような連中にも感心するわ。おめでとう。バカって認定してあげる。もしそれだったら何の特殊能力も持たない人間が生き残れる訳がないじゃない。それ以前に繁殖力のある虫があんなにデカイんだから誰の手も加わっていなかったら今頃虫ポケしかいないバグズ・アースにテラ・フォーミングされているわよ。アンタ達、生態ピラミッドとか弱肉強食とかいう単語知っている? ポケモンも生き物なんだからね。食べなきゃ日干しどころの騒ぎじゃないのよ。そこら辺分かんないかなぁ」

「お姉ちゃん! 脱線し過ぎ!」

「あらゴメンなさい。で、私達は……」

ミトラスはそこまで言った所で言葉を区切った。そこでトオルにもいままで聞こえていたポケモンの声が聞こえなくなっている事が分かった。森は今、完全に無音に包まれている。いや、遠くで微かに雷鳴に似た音が鳴り響いている。

「な、なんだよ……今度は何が起こるんだよぉ」

「し、黙って…………抜かったわ。完全にHALに居場所がバレている。逃げるわよ、トオル!」

ユウキの問いを完全に無視してミトラスがトオルの自転車へと向かう。するとそうしようと思っていた訳では無いが何故かトオルも自転車へと走り出し、それに釣られてユウキも自転車へと走り出した。

「あ、れ!? なんで体が勝手に動くの!?」

「心配しないで! 寝ている間にちょっと脳ミソいじっただけだから! 今は私とリンクしていて動いているの! ちょっとしたラジコンみたいなもんよ! この事態を無事に切り抜けたらコントロールは戻すわ!」

ミトラスが言い終わると同時に段々大きくなっていった遠雷の音が爆音へと変わる。彼らが上空を見上げるとハガネールとカビゴンとヤンヤンマを混ぜたようなモノが通過した所だった。

「ハインド!? CGAはいったい何を考えてるの!?」

ミトラス曰くハインドというポケモンは向きを変えるとトオル達に火を吹いてきた。

「く、吹き飛ばすわよ!」

言うとトオルやユウキやリオをねんりきで射線から弾き飛ばすミトラス。直後に30ミリの弾が着弾し始め周囲の木がボロ雑巾のように散っていった。

「早く自転車で逃げて! 二手に別れるわよ! ハインドはこっちで引き受けるからユウキ達は隠れていて!」

「「ガッテンだ!」」

「ちょちょちょちょっと!? あれを僕らが……」

「それじゃぁパーティータイムよ!」

トオルの抗議はミトラスの念力の制御下に置かれた2丁の軽機関銃MG43の連射音によって掻き消される。

トオルの自転車のタイヤが勝手に回り出し、林の中を爆走し始めた。

「僕は義務教育が終わればそれでいいんだぁあぁあ!!」

その悲痛な叫びはハインドには勿論、ミトラスにすら届かなかった。自我も無くミトラスの制御下に置かれた自転車は言うまでも無かった。





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