明朝、トオル達は起きると次のイソゴタウンに向かって出発した。途中、トオルは初めて野生ポケモンと出会いバトルするのだがミトラスのレベルは既に20を超えていたのであっさりと倒してしまった。
「う〜ん……あっけないものなんだなポケモンバトルって」
「あんな訳分からんモノを倒した後だったらそうだろうなぁ」
という訳で野生ポケモンとのバトルもトレーナーとのバトルも全てユウキ&リオに任せる事にして、トオルとミトラスはのんびりツーリングをする事になった。
「ねぇユウキ。これからどうするの?」
iPODを装着して自分の世界に入ろうとしたのをミトラスに阻止されたトオルが暇つぶしに聞く。
「ん〜。取り敢えずジム巡りでもしてみるかな。バッジ取っとけば将来本格的なトレーナーになるにしろ、ブリーダーになるにしろ、持ってて損になる事はないだろ」
確かにユウキの言う通り、ジムバッジはちゃんとした資格のような物になるので求める物は多い。また、アニメやドラマでもポケモンを題材にされた場合、須く主人公はジム巡りをするのでそれの影響を受けてジム巡りをする子どもも多い。というより大多数である。ユウキのように将来を考えて何かする子どもはこの時代では稀有な存在だった。
「……ジム巡りかぁ。すごくダルいな。いっその事、どこかの町のポケモンセンターに4年間居座ろうかな。冒険はたまに観光に違う町に行く程度でいいや。……よし、次の町のポケモンセンターに居座ろう」
トオルが早速旅を止める計画を立てたが、ユウキにより計画は根本から崩壊した。
「トオル〜、お前出発する時に博士なり先生なりの説明をちゃんと受けてたか〜? ポケモンセンターは利用者がメッチャ覆いから回復と食事はいつでもできるけど、宿泊は1日したら1週間はできないって決まってんだぞ。それでもあぶれる奴がいるんだからその計画は無理だと思うなぁ。大体昨日の件で俺達、指名手配か良くてもブラックリストに載ってるんじゃないの?」
「それなら大丈夫よ。昨日モンスターボールの制限解除した時に一緒に監視データなんかを全て消去したからね。その辺、このミトラス様に抜かりは無いわ」
「さいですか……それにさ、4年間の大半を野宿ってキツイと思うぜ? なんたって1週間シャワー無しだもんな。人が近寄れなくなるって。てか俺はそんなトオルには近づけないな」
「別に近寄って欲しいなんて誰も言ってないよこのホモ。ご忠告をどうも」
「……どうやったらそんなに毒を吐けるようになるんだよ」
「5年程トトポケバの鉄火場に通ってごらん。どんどん言葉を覚える事ができるから」
朝から不定期に発生する不毛な会話にミトラスは呆れながら終止符を打つ。
「どうでもいいけどトオル、私達もジム巡りするわよ。それで四天王に挑戦するの。分かった?」
「いや、分かった? って言われても……普通のバトルするのも面倒臭いのになんでジムリーダーや四天王に挑戦しなきゃいけないのさ。絶対ヤだからね。大体ミトラスは追われてんジャン。その……シージーエーだとかなんとかにさ。公の場になんか出たらマズイんじゃないの? ポケモンセンターですら銃持ち出してきたんだから、スタジアムなんかに行ったらこう……はかいこうせんを束にしたような物が出てくるんじゃないの? 昨日のハインドみたいなのがさ」
「あら、少しは状況が分かったみたいじゃない。そうね、公の場に出るのは本来なら得策じゃないわ。でも行かなきゃいけないの」
ミトラスはそう言ってからリオを見る。連続でバトルしていたのでバテバテな様子だったが、ミトラスと目が合うとニヘラと笑った。ミトラスもそれに返すように微笑んでから話を続ける。
「……前にこの世界の成り立ちについて話したわよね……あ、ハインドが来たから途中だったっけ。え〜と、今年は何年? 西暦で」
「2032年だけど?」
トオルが質問の意味を理解しないで答えた。
「そう、西暦2032年ね。じゃあ西暦1年には何があった? そもそも西暦って?」
「……」
トオルは返答に詰まる。ミトラスはユウキにも目を向けたが言わずもがなである。彼女は彼らの勉強しなさ具合に呆れを通り越して畏怖すら覚えた。
「もう、逆にやりやすいったらありゃしないわ。なにせ何にも勉強しないで学校から出てきているんだものね。いい? 今から言うのが本当の歴史よ。耳の穴かっぽじって聞きなさい……あ〜、長すぎるわ。面倒ね。じゃあいいわ。ポケモンと人はいつから一緒になった?」
「え〜と〜。18世紀の後半だっけ? タリバンだかタジリンだかとかいうすごい名前の人が始めて見付けたんでしょ?」
ユウキが言うとミトラスがようやく話ができると安心した。
「タジリンで合っているわ。すごい名前なのは当たり前よ。だって田尻智って人の名前をモジッて作られた架空の人物なんだから。あ、ちなみに彼は今、”コントローラー”の1人になっているわ。まだまだ現役でポケモンを作っているわよ。って私が話したいのはそれじゃなくて……ポケモンと人が初めて出会ったのは2008年よ。つまりまだ30年も経ってないの。私達が開発されてから」
近くの茂みからポッポが飛び出してきた。すかさずリオがバトルをするべく追い駆けていく。そんなほのぼのとした情景を無視した会話はトオルの言葉で再開された。
「……嘘だね。それならなんで学校が教えてくれないのさ。もし本当だとすればすごく大事な事じゃん。この世界に住む人にとってさ。後、ミトラスの言い方だとまるで人間がポケモンを作ったみたいだよ?」
「トオル……ポケモンセンターはどうやって稼動しているか昨日教えたでしょ。レプリカ・スワッピング法を使っているって事、覚えている? 大量生産されたクローンを交換して行うのよ。ポケモンを作れるような技術が無ければそんな方法普及する訳ないでしょ? 後ね、今から教える事を一々学校で教えていったら大変な事になるわよ。黙って聞いててね。……2012年、アンタ達が生まれる10年前ね。地球はフォトン・ベルトっていう光子と放射能の帯に突入したの。だから生身のままじゃ生活できなくなったのね。あ、放射能ってのはどくどくを100倍位威力高めたようなものね」
「コエェなそれ」
「そうとても恐いものなの。で、人間はそれから自分達を守るためにシェルターを作った。ダーじゃなくてターよター。……それがここ。通称ユートピア。ここまでで質問は?」
「いや、もうどこにツッコんでいいんだか分かんないや」
「じゃあ無しと見なします。それでアンタ達は今何を思った? 今は確かにこのシェルターは機能しているわ。でもいつかもしかしたら壊れるかもしれない。壊れたら自分達は一気に死んでしまう。そういう状況を知って心にのしかかるものは?」
トオル達はいまいちピンと来なかったが、取り敢えず模範解答と思われる答えを返す。
「恐怖と絶望……かなぁ」
「ま、そんな所ね。大抵の人間の心は弱いからそんな状況に四六時中置かれたら発狂しちゃうわ。そんな人達を抱えた防壁はどれくらい効果があると思う? 防壁ってのは内からの攻撃には弱いものなのよ。暴動なんかが起きたら一瞬でユートピアなんか崩壊するわ。テロが起こってもね。そんな厄介事、コントローラー達が抱えたいとでも思っている? 全く持ってナンセンスだわ」
「はい質問! ”コントローラー”って何? ゲームに使うアレ?」
ユウキの質問への答えか、ミトラスがアン? と彼を睨んだ。その気迫に負けて口を噤む。
「……はぁ、そういえばそれも知らないんだっけ。いい? コントローラーってのは言わば政府の事よ。ユートピア政府って言うべきなのかはよく分からないけど……ちょ、ちょっと待ってよその顔。まさか政府すら分からないって言うんじゃないでしょうね」
2人は目をポッポとリオのバトルの方に向けた。ポッポにリオのでんこうせっかが決まる。自身の不利を悟ったポッポは逃げ出そうとするがリオがそれを許……
「聞きなさい!」
「「のわっ!?」」
「いい!? 私はね、小学校の教師でも職業訓練学校の教師でもないの。ましてや大学の講師でもないわ。だからいろいろハショるし間違っているかもしれないけどね。政府ってのはね、会社の役員会とか総会とか……お願い、そろそろ理解して。あぁんもう! 社長みたいなものよ! 普通の会社員が国民! 分かった!?」
「わ、分かったからそんなにヒートアップしないで。要は偉くて命令を出せる所なんでしょ?」
「ハァ……ハァ……そうよ。……ようやく、理解して、貰えて、光栄だわ」
あまりに大声を上げ過ぎてねんりきで体を支える事も難しくなったミトラス。トオルがなんとか落ち着けようとして俄か成功した時にユウキが追い討ちを掛けた。
「……国民って……なんだろ」
「……もうイヤ」
ロスタイムに入る気力はミトラスには残されていなく、ガックリと力無く地面に崩れた。
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